子育て支援「事業主負担」で賃上げ機運は萎むのか 社会保険活用の「提唱者」権丈教授の寄稿(下)

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この点については、「第4回こども未来戦略会議」では、次のように話している。

私は慶應の組合健保の理事として21年目になりますが、健保組合は医療と介護保険を運営しています。健保組合の理事会、組合会で、医療・介護保険制度の持続可能性のために別立てで設計された子育て支援制度を新たな会計の下に運営することは、何の不自然さもない状況だと思います。
医療・介護保険と子ども・子育て制度との関係は同じですので、ぜひこの新たな枠組みに、健保組合で運営している医療保険と介護保険の両方が協力する方法を考えてもらいたいと思っております。

なぜ、労使折半なのか。先にも触れたように19世紀後半、ドイツ帝国の宰相ビスマルクは、彼らが生きていた経済体制から最も利益を得ているのは経済界であるという理由から、労働者に対するアメとムチの政策におけるアメの政策の中で、労働者の生活を守る制度の費用負担に使用者の折半負担を求めた。なお、ここで言うムチの政策とは社会主義者鎮圧法などをさす。

後に、日本の大河内一男東大名誉教授は、資本主義体制の持続には労働力の再生産は不可欠であり、その労働力を総資本の観点から保全するための政策こそが社会政策の本質であるという労働力保全理論を創っていくことになる。個別資本の意思に任せていたのでは、労働力は保全できず、再生産されないという話である。

将来の「購買力保全」のために経済界も協力を

これに加えて、私は、賃金システムが、子ども・子育てのための支出の膨張と収入の途絶に対応できないがゆえの少子化、人口減少で被害を受ける代表は未来の経済界であると考えている。

そして、将来の労働力もさることながら、将来の購買力を保全するためにも、労使折半で子ども・子育て支援に協力してもらいたいと考えてきた。この購買力保全の考え方は、「第3回こども未来戦略会議」で次のように話している。

ビスマルクのロジックに加えて、今は、人口減少というのは、将来の労働力のみならず、 未来の消費、投資需要の縮小をもたらすのであるからという理由があるかと思いますが、これは経済界全体のマクロの観点から見た場合に問題を意識するという合成の誤謬の話であって、日々の企業経営というミクロの観点からは、やはりそうは言っても労使折半には反対したいということになるかと思います。

なお、「合成の誤謬」という言葉に関しては、自著『もっと気になる社会保障』の「はじめに」には次のような文章がある。

本書にも、「実際のところ、公共政策の目的のほとんどは、『合成の誤謬』の解決である」という文章がある。合成の誤謬が関わる問題は、必ず総論賛成・各論反対となる。それでも総論に基づく解決策を実行する方法を考える。それは、2001 年に出した本に書いていた「価値判断と実行可能性という2 つの制約条件のもとで織りなされるアート」の趣があるが、それが政策論というものであろう。
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