BEVのスペクターは、BMWが2022年4月に発表した「i7」とバッテリーを含めた共通のパワートレインを持つ。「しかし、i7とはまったく違うクルマです」と、ドクター・アヨウビ。
「まず、シャシーが違います。スペクターで使うのは、“アーキテクチャー・オブ・ラグジュアリー”と私たちが名づけた、アルミニウムの押出し材を使ったスペースフレーム。サスペンションシステムを含めて、すべて“ロールス・ロイスらしさ”の実現を追求しました」
その1つに「プラナー」サスペンションシステムがある。先に触れた第2世代ゴーストと同様、あたかも宙から吊り下げられたように走行中の振動を抑える、「スカイフック理論」を採用したアクティブサスペンションだ。
加速性もしかり。「スペクターの最大トルクは900Nm(!)です。しかし、大きなトルクで暴れ馬のような加速をさせては、ロールス・ロイスではありません」とドクター・アヨウビ。
「思い返すとある晩、午前2時ぐらいだったと思いますが、トルステン(ミュラー=エトヴェシュCEO)から電話をもらいました。そこで、『BEVの開発を本格的に始めることにしたから、よろしく頼むよ』と言われたのです」
ドクター・アヨウビは、2018年にBMWからロールス・ロイスのディレクター・オブ・エンジニアリングに就任し、ICEのロールス・ロイス車を手がけてきた有能なエンジニアだが、BEVの専門家ではない。
スペクターを2022年に発表するなら、開発期間はわずか4年だ。それなのに、なぜドクター・アヨウビを指名したのだろうか。
ミュラー=エトヴェシュCEOに聞くと、「彼は十分に『ロールス・ロイスとはなにか』を理解してくれていたので、信頼して任せることができました」と笑顔で語った。
試乗で感じた“RRらしさ”の根源
果たして、ナパバレー周辺の道路をフリーウェイやワインディングロードを含めて走って感じたのは、まさにミュラー=エトヴェシュCEOとドクター・アヨウビの言うとおりのことだった。
おもしろいことに、走りの印象は12気筒モデルとよく似ている。「粛々と」という感じで大きなトルクでもって走り出し、クルマが“もっとアクセルを踏め”とドライバーに要求するような雰囲気は皆無。
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