「ロールス・ロイスのデザインで大事なのは、一目でロールス・ロイスとわかってもらうこと。いわゆる審美性よりも、ほかに類似のものがない、独自性のほうが大事なのです」
同社初のSUV「カリナン」のときも、北米の試乗会場において同様のことを、私はそこで出会ったロールス・ロイスのデザイナーから聞いていた。
スペクターは、「スプリットヘッドランプ」と呼ばれる前照灯の機能とシグネチャーランプの機能を上下で分けているし、大きく傾斜させたパンテオングリルは、空気の剥離をよくするため空力的処理も施されている。
たしかに新しい。でも、伝統的ともいえる。そのいい例が、ヘッドランプを点灯するとパンテオングリルの縦スリットがLED照明で輝く仕掛けだ。
紀元前25年ともいうローマのパンテオン神殿の列柱を模した、ロールス・ロイス伝統のパンテオングリル。それとLEDライトとの組み合せは現代的ともいえるし、古典的ともいえる。でも、今までになかった仕掛けである。
技術的には最新だけれど、コンセプトの根底には「グリルを大切にする」という昔からの考えがあるのだ。
ロールス・ロイス車を特徴づけているグリルの輪郭は、20世紀初頭の創業時より採用されていて、1920年代には縦スリットが定着しはじめている。
一方、LED照明を組み合わせた現在のグリルは、2020年の2代目「ゴースト」でデビューし、2022年にマイナーチェンジした「ファントム シリーズ II」にも採用された。
創業者の予見「電動車こそ真のラグジュアリー」
もちろん“ロールス・ロイスらしさ”は、デザインの分野にとどまらない。エンジニアリングについても、徹底的に追求されている。
「エフォートレス(楽々)、ワフタビリティ(ふわりと動く)、マジックカーペットライド(空飛ぶじゅうたんのような乗り心地)の3点は、ロールス・ロイスがクルマづくりにおいて常に守っている原則です」
そう言うのは、エンジニアリングを統括するドクター・ミヒア・アヨウビだ。スペクターの開発チームに課せられたタスクは、ロールス・ロイス独自の哲学とフィーリングを技術で表現することだったという。
「(創業者の1人)チャールズ・ロールズは、いつかロールス・ロイスはガソリンエンジンから電気モーターへと移行するだろう。なぜなら静粛性こそ真のラグジュアリーだから、と言っていました」
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