電気のロールス・ロイスに「らしさ」はあるのか? 初の量産BEV「スペクター」試乗で見た超世界

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「ロールス・ロイスのデザインで大事なのは、一目でロールス・ロイスとわかってもらうこと。いわゆる審美性よりも、ほかに類似のものがない、独自性のほうが大事なのです」

同社初のSUV「カリナン」のときも、北米の試乗会場において同様のことを、私はそこで出会ったロールス・ロイスのデザイナーから聞いていた。

スペクターは、「スプリットヘッドランプ」と呼ばれる前照灯の機能とシグネチャーランプの機能を上下で分けているし、大きく傾斜させたパンテオングリルは、空気の剥離をよくするため空力的処理も施されている。

たしかに新しい。でも、伝統的ともいえる。そのいい例が、ヘッドランプを点灯するとパンテオングリルの縦スリットがLED照明で輝く仕掛けだ。

LEDのポジショニングとともにパンテオングリルの照明がスペクターの顔を印象づける(写真:Rolls-Royce Motor Cars)

紀元前25年ともいうローマのパンテオン神殿の列柱を模した、ロールス・ロイス伝統のパンテオングリル。それとLEDライトとの組み合せは現代的ともいえるし、古典的ともいえる。でも、今までになかった仕掛けである。

技術的には最新だけれど、コンセプトの根底には「グリルを大切にする」という昔からの考えがあるのだ。

1934年の「30EX  EXPERIMENTAL PHANTOM III 'SPECTRE'」(写真:Rolls-Royce Motor Cars)

ロールス・ロイス車を特徴づけているグリルの輪郭は、20世紀初頭の創業時より採用されていて、1920年代には縦スリットが定着しはじめている。

一方、LED照明を組み合わせた現在のグリルは、2020年の2代目「ゴースト」でデビューし、2022年にマイナーチェンジした「ファントム シリーズ II」にも採用された。

ロールス・ロイスのフラッグシップモデル「ファントム」の名を冠する2022年のシリーズ II(写真:Rolls-Royce Motor Cars)

創業者の予見「電動車こそ真のラグジュアリー」

もちろん“ロールス・ロイスらしさ”は、デザインの分野にとどまらない。エンジニアリングについても、徹底的に追求されている。

「エフォートレス(楽々)、ワフタビリティ(ふわりと動く)、マジックカーペットライド(空飛ぶじゅうたんのような乗り心地)の3点は、ロールス・ロイスがクルマづくりにおいて常に守っている原則です」

そう言うのは、エンジニアリングを統括するドクター・ミヒア・アヨウビだ。スペクターの開発チームに課せられたタスクは、ロールス・ロイス独自の哲学とフィーリングを技術で表現することだったという。

「(創業者の1人)チャールズ・ロールズは、いつかロールス・ロイスはガソリンエンジンから電気モーターへと移行するだろう。なぜなら静粛性こそ真のラグジュアリーだから、と言っていました」

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