神宮外苑・再開発問題は「貧すれば鈍す」の象徴だ なぜ欧米では「私有地だから自由」が厳禁なのか

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東京という都市は、1923年の関東大震災の大打撃から十分に立ち直らないうちに、1944年から1945年にかけてのアメリカ軍による空襲、特に1945年3月10日の東京大空襲で面積の1/3以上が灰燼に帰してしまいました。実は戦後、その失われた首都機能を回復するために東京都が作り上げた「東京戦災復興都市計画」という素晴らしい計画がありました。

しかしながら、国も東京都もそのための予算が確保できなかったこと、戦災による資材・人材が不足していたこと、そして何よりその計画が実現して日本が国力を取り戻してしまえば、ドイツが二度の世界大戦を引き起こしたように、第2の太平洋戦争を招いてしまう恐れがあるとして、GHQ(連合国最高司令官総司令部)から反対されたことで、実現には至りませんでした。

その後、冷戦に突入することでアメリカの対日政策は大きく方向転換し、日本も高度成長期を迎えるわけですが、時既に遅しで、東京という都市は、その首都機能を支えるには余りにも脆弱で醜いものになってしまい、今日に至っているのです。

神宮外苑は「再開発」なのか

六本木ヒルズ近くの東京ミッドタウンがある場所には、以前、今は市ヶ谷に移転した旧防衛庁がありました。土地の所有者は国でしたが、そこを入札によって民間に売却したわけです。本当にあの場所を開発する必要があったかと言えばその必然性はなく、全部を公園にしてもよかったのですが、国が財政再建のために売却したということです。

ですから、東京ミッドタウンは、正確に言えば「再開発」ではなく「開発」です。これに対して、六本木ヒルズは「再開発」であり、それがなければ、あの場所はずっと吹き溜まりのような脆弱な場所であり続けていたのです。

翻って、神宮外苑はどうかと言えば、やはりこれは「開発」や「整備」ではあっても、本来は「再開発」の場所ではありません。あえて再開発をする必然性がないからです。老朽化した神宮球場や秩父宮ラグビー場を建て直せばいいだけなのですが、所有者である宗教法人明治神宮や独立行政法人日本スポーツ振興センターが建替資金の捻出をできないために、「再開発」という形を取ったということです。

明治神宮が宗教法人であるために、国が資金支援をできないという問題もあるようですが、もし明治神宮に十分な資金がないのであれば、国や東京都が土地を借り上げて野球場やラグビー場を建てればいいだけの話です(あるいは改修という形でもいいですが)。おそらく、国や東京都にもその資金がないからこそ、民間事業者の力を借りたということなのでしょう。

しかしながら、本来の「再開発」というのは、このまま本当にこんな場所を放っておいていいのか、次に首都直下型地震が来たら、間違いなく大きな被害が出るというような場所を、安全で人々が集える場所に作り替えようというものであり、防衛庁跡地や神宮外苑のように、もともと空地だった場所に高層ビルを建てることではありません。まず、こうした再開発の基本を押さえておく必要があります。

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