経済学者のジョン・メイナード・ケインズ(1883-1946年)は、『ケインズ説得論集』に収められている論考「孫たちの経済的可能性」の中で、イギリスやアメリカのような先進諸国では、テクノロジーの進化によって生活水準が向上し、向こう100年の間には、1日3時間労働が実現しているだろうと予言しました。
人類にとっての経済問題は解決し、人々は働かなくてもよくなり、労働観も変わることから、余暇を有効に使える人生をわきまえた人が尊敬されるようになると考えたのです。
しかし、こうしたケインズの予言は当たりませんでした。今日、経済的問題は一向になくなっていませんし、1日3時間働けば生活ができるという社会は、この先もとても実現しそうにありません。
テクノロジーが無意味な仕事をつくりだす
この理由について、社会人類学者のデヴィッド・グレーバーは、『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』の中で、テクノロジーがむしろ無意味な仕事をつくりだすことに使われたからだと説明しています。
グレーバーは、”We are the 99%”(我々は99パーセントだ)というスローガンの下で行われた、2011年のニューヨークでの抗議活動”Occupy Wall Street”(ウォール街を占拠せよ)の理論的指導者です。
同時期の著書『負債論 貨幣と暴力の5000年』の中で、貨幣の歴史は血と暴力によって彩られた負債の歴史であり、「借りたお金は返さなければならない」という道徳観は間違っており、すべてを帳消しにして出直すべきだとして、世界に大きな衝撃を与えました。
「ブルシット」(bullshit)を直訳すれば「牛の糞」、つまり、「何の役にも立たないもの」ということです。グレーバーは、「ブルシット・ジョブ」(bullshit job)を次のように定義しています。
20世紀に入って、金融サービスやテレマーケティングなどの新しい情報関連産業、企業法務、人事、広報といった管理系のホワイトカラーの仕事が急拡大しています。
グレーバーは、世の中の仕事の過半数は無意味であるとしたうえで、特に、プライベート・エクイティ・ファンドのCEO、ロビイスト、PRリサーチャー、テレマーケティング担当者、企業弁護士などは、消えてしまっても困らないし、むしろ社会は良くなるかもしれない類の仕事であるとしています。
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