【前編】トラブル続出「定年後再雇用」のQ&A 勤務態度悪い社員は再雇用しなくていい?
ただし、この点は、今後様々な裁判例が出てくるかもしれません。そのため、高年法違反の事実を認定したうえで、不法行為の損害賠償として使用者に賠償を命ずる形をとっています(図表②③「トヨタ自動車事件」「九州惣菜事件」)。
一方で、定年後再雇用規定などで基本的な労働条件が定まっているような場合(たとえば週5日、1日8時間勤務、給与は定年時の9割など)には、定年後再雇用時の契約内容を決定する手がかりがあるので、そのような契約内容の再雇用契約が成立したと認定される可能性があると思われます。
したがって、定年後再雇用の労働条件は一律に定めず、個別具体的な高年齢者の状況に合わせて提案できるような形にするのがよいと考えます。
⑵ 実務上の対応
定年後再雇用の労働条件については、定年直前になって急に、労働者の想定と異なる労働条件を会社が提示することでトラブルに発展することが多いようです。したがって、再雇用の意向確認をする時点で、どのような契約になりそうかという見通しを伝えられるとよいでしょう。
そして、会社が提案した再雇用条件が高年法の趣旨を没却するようなものでなく、事業主の合理的な裁量の範囲の条件提示であるといえるように、あらかじめ材料(証拠)を揃えておくことが重要です。
「いまは年功の要素があるため基本給が高いままだが、再雇用の場合には年功の部分がなくなる」「いまの業務内容を分析したら、週4日で対応可能」「定年後は営業から離れるので、営業手当はなくなる」「この部署は世代交代をする予定なので、別の部署になる」などの情報を与えて、労働者に定年後どうするかを考える材料を与えたほうがトラブルにはなりにくいと思います。
同一労働同一賃金に違反していないか
⑶ 定年後再雇用契約を締結した後の紛争
会社が提示した定年後再雇用の条件に応じて労働者が合意したとしても、再雇用契約の締結後であっても、たとえばパートタイム有期労働法(同一労働同一賃金)違反であると主張して争ってくることがあり、様々な判断がなされています(図表④〜⑨「名古屋自動車学校事件」「日本ビューホテル事件」「学究社事件」「五島育英会事件」「長澤運輸事件」「北日本放送事件」)。
したがって、とりあえず定年後再雇用の労働条件に合意さえしてくれれば安心と考えるのではなく、提案した労働条件が同一労働同一賃金に違反しないかどうかも検討したうえで提案する必要があります。
岸田 鑑彦(きしだ あきひこ)
使用者側労務専門弁護士として、訴訟、労働審判、労働委員会等あらゆる労働事件の使用者側代理を務めるとともに、労働組合対応として団体交渉に立ち会うほか、企業法務担当者向け、社会保険労務士向けの研修、セミナー講師を多数務めるなど、労働法分野のあらゆる側面において企業活動を支援している。(杜若経営法律事務所)
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