脱炭素時代の地政学的競争で、日本が生き抜く道 脱炭素技術への投資にアニマルスピリッツを
とりわけ危機感を強めているのがアメリカだ。以前から安価な中国製ソーラーパネルに対抗関税を課すなどしてきたものの、クリーン技術における中国の台頭を長らく食い止めることができなかった。
そうした中、昨年8月に成立した「インフレ削減法」(IRA)は10年間で推計3690億ドル(約50兆円)の政府支援を行う過去に例のないもので、EVなどクリーン技術の導入に補助金を出すことで脱炭素化を推進する。同法はアメリカ国内での生産を補助金の条件としており、世界貿易機関(WTO)の通商ルール上の問題が指摘されるが、雇用創出への期待が支持の拡大につながった。政府の介入が最小限であることをよしとするネオリベラリズムの時代から産業政策の時代に変わり、アメリカの気候対策は新たなフェーズに入ったと言えよう。
アメリカの保護主義に対応を迫られるEU
EU(ヨーロッパ連合)は、フォン・デア・ライエン委員長就任直後の2019年12月に「欧州グリーンディール」を発表し、脱炭素を機会と位置づける成長戦略を打ち出した。そして2020年1月の「欧州グリーンディール投資計画」において、今後10年間で官民合わせて1兆ユーロ(約140兆円)を気候関連分野に振り向けるという目標を掲げた。
新型コロナ危機を受けた経済復興策「次世代のEU」(2020年5月)では、グリーントランジションとデジタルを柱とする7500億ユーロのパッケージを打ち出した。さらに、ロシアのウクライナ侵攻後の昨年5月にはロシア依存脱却に向けて再生可能エネルギー拡大を掲げ、今年2月にはアメリカのIRAを受けて「グリーンディール産業計画」を発表した。
一方、EUでは域内生産が補助金交付の条件となっていない。EUはアメリカに対し国内生産要件の撤廃を求めるとともに、それが実現しない中でアメリカへの生産拠点流出を防ぐために、加盟国による補助金の条件緩和やEUレベルの戦略的プロジェクトへの支援拡大が検討されている。
このように中国、アメリカ、EUの間で脱炭素に向けたクリーン技術を推進する産業政策競争が展開されており、我が国もその中で競うことになる。
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