脱炭素時代の地政学的競争で、日本が生き抜く道 脱炭素技術への投資にアニマルスピリッツを
第一に、何のための技術に投資するべきか、すなわち「目的」が明確になっていること。この点は過去の事例と決定的に異なる。本稿で見てきたように、今ほど世界の潮流が明確になったことはない。世界で求められるのは、効果的な脱炭素技術だ。
第二に、投資家による「選択」である。日本でもGX移行債による先行投資支援により脱炭素技術への投資が促される。政府が道筋を示すことで投資判断を促し、規制・制度面の見直しを一体として進めることで市場創出が期待される。そのなかで投資家が健全なアニマルスピリッツを発揮し、より大きなリターンが期待できる技術(すなわち世界で求められるより効果的な脱炭素技術)を選択して投資することが、日本の競争力回復に寄与する。
こうしたプロセスが機能する条件として必要なのは、第一に、健全なアニマルスピリッツによる投資選択がなされるために、電力セクターをはじめとして企業間での公正な競争環境が確保されること。第二に、既存産業や従来技術を保護・温存する歪曲的な政策が取られないことだ。産業政策に対する古くからの批判として、政府は有効な投資先を判断する能力を持たないと指摘される。GX移行債による投資支援には一定の条件が課されるであろうが、脱炭素に逆行する歪曲を生じさせないことが重要だ。
効果的な脱炭素技術で積極投資を
例えば政府が今年6月に改定した「水素基本戦略」では、水素の低コスト化のために供給・利用両面で取り組みを進め、日本の技術的強みを生かした世界展開を狙うことは評価できる。しかしながら、水素・アンモニア混焼など火力発電での利用は優位性が明らかでなく、国際的な普及のハードルは高い。水素・アンモニアの活用が既存の火力設備の延命策になるのでは本末転倒だ。
一方で、次世代の太陽光技術として注目されるペロブスカイト太陽電池は脱炭素技術として有望だ。コストダウンに向けた供給と利用両面の道筋を示し、制度面の見直しを行うことにより、民間の投資を促すべきであろう。
EVは先行する中国や欧米市場で普及が加速化し、日本勢は対応が遅れている。現状で優先すべきは世界での市場拡大への対応だ。電池の調達多角化や新技術開発への支援などにより、日本勢の積極的な投資を促していくべきだ。
加速する脱炭素化を通じて形成される各国の競争力は今世紀の地政学的構図を左右し、ひいては我が国の安全保障環境にも影響を与える。効果的な脱炭素技術に焦点を絞った投資戦略を進め、クリーン技術での劣勢を1日も早くはね返さなければならない。
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