脱炭素時代の地政学的競争で、日本が生き抜く道 脱炭素技術への投資にアニマルスピリッツを
しかし現状の厳しさは数字からも一目瞭然だ。
2022年のクリーンエネルギーへの移行のための投資規模は上位から中国(5460億ドル)、アメリカ(1410億ドル)の順で、日本(230億ドル)は相対的に経済規模が小さいドイツ、フランス、イギリスの後塵を拝し6位にとどまる。サプライチェーンにおいて中心的な役割を果たす製造施設への投資では2022年投資額全体(787億ドル)の約9割を中国が占め、その割合は2018~2021年平均で79%である(出所:BloombergNEF)。これではまるで競争にならない。
中国に集中し過ぎたサプライチェーンの分散化はG7やグローバルサウスの国々と連携して進めることが必要であり、そのためには途上国を含む多くの国に利益となる安定したサプライチェーンに向けた国際協調が不可欠だ。
G7とG20サミットに向けて、筆者の所属する「公益財団法人地球環境戦略研究機関」(IGES)では国際連携するシンクタンクグループ(T7、T20)を通じて「重要鉱物サプライチェーン」に関する政策提言を今年4月と5月に公表した。
そこでは、(1)資源開発や鉱物生産への官民投資の拡大、(2)需要増を抑える新技術・代替素材などのR&D支援、(3)資源採取国における環境・人権保護などのガバナンス欠如に対処する透明性向上や国際基準の普及、(4)重要鉱物のリサイクル拡大による対外依存の低減、(5)G20などの連携枠組みの強化、について提言している。
これらの方向性は今般のG7の採択文書でも確認され、本年秋のG20サミットに向けて連携の具体化が期待される。また今後は、サプライチェーンの信頼性を高めるべく供給国との通商枠組みの強化も検討していくことが有益であろう。
GX投資に踏み出す日本企業
日本政府もGX(グリーントランスフォーメーション)の推進に動き始めている。今後10年間で150兆円超のGX関連投資を引き出すべく、10年間で20兆円規模の先行投資支援を行う。しかし今後は投資規模の確保にとどまらず、競争力を確保できるかが問われる。
日本が実用化した技術でありながら、その量産化・コストダウンが他国で進み、シェアを失った例は、液晶やソーラーパネル、リチウムイオン電池をはじめとして枚挙にいとまがない。過去の敗因としては、世界市場を先読みした集中投資で先を越されたこと、価格競争に陥らないための技術面のリードを守ることができなかったことなどが指摘される。一方で、半導体材料で高い競争力を確保し続ける企業では、最先端を追求する研究開発への投資が続けられている。 勝敗には多くの要素が絡むが、決定的なのはいつ、何に投資するかだ。
脱炭素時代の投資競争における日本勢のパフォーマンスについて、筆者は条件付きながら希望を持っている。理由は2つある。
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