大谷翔平の名言「憧れるのやめましょう」の舞台裏 WBCで日本代表監督を務めた栗山英樹が振り返る

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球場入り後、吉井投手コーチから報告がありました。

「監督、ダルが『いきます』と。順番はどうしますか?」

2人で話をして、ダルは8回に決めました。翔平は9回の登板を基本として、打順の巡りや試合展開を睨みながら、7回以降まで可能性を広げておく。最終的には、試合前に本人と話をして決めることにしました。

2016年のクライマックスシリーズ第5戦で、翔平に抑えでマウンドに上がってもらいました。日本人最速の165キロを記録して、三者凡退で締めくくった試合です。この試合の彼は指名打者で出場していたのですが、ベンチの近くにブルペンがあったので、試合展開を見ながら肩を作ることができました。

今回は、そうもいきません。ブルペンがレフトの後方にあるのです。ベンチとブルペンの動線を調べると、グラウンドに出ないでブルペンまで行けるルートを見つけました。10メートルほどお客さんが歩くスペースを通らなければならないのですが、この動線を使える確認はしておきました。

誰かに頼まれたわけでもなく動いた大谷翔平

あとは、翔平がどうやって肩を作るのか。試合前にやるべきことが多く、練習中にゆっくり話す時間を取れませんでした。慌ただしくブルペンとイニングの話をすると、翔平は力みのない口調できっぱりと言いました。

「大丈夫です。肩を作るのは自分でやりますので、気にしないでください。監督が思っている9回に合わせます」

翔平なりのイメージは完全に出来上がっている。それは、私が考えているものと寸分違わず重なり合っています。

ビハインドを大きく背負う展開では、ダルと翔平を無理に登板させることはできません。追いかける展開だとしても1、2点差です。

必ずリードして終盤へ持っていく。何としても2人につなぐ――そんな言葉が心に浮かびました。

私自身も試合前の準備を進めていると、岸マネジャーがスマートフォンの写真を見せてくれました。今日これから投げる投手たちに、翔平がアメリカの打者の映像を見ながら、傾向と対策をレクチャーしてくれているひとコマでした。誰かに頼まれたからではありません。翔平自身がみんなの役に立ちたい、と考えたからでした。

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