東洋経済オンラインとは
政治・経済・投資 #新競馬好きエコノミストの市場深読み劇場

「インフレ率2%」は日本経済を破滅させてしまう なぜ無理に欧米と同じ基準を押しつけるのか

17分で読める
  • 小幡 績 慶応義塾大学大学院教授
2/7 PAGES
3/7 PAGES
4/7 PAGES

ただし、これは必需品の話である。食料、日用品、外食(中食)なら牛丼チェーン、スーパーの総菜である。一方、ぜいたく品、エンターテインメント系の製品やサービスが、現在の先進国、成熟国の消費の中心だ。企業もそちらのほうが利益率が高いから、皆、ぜいたく品、エンターテインメント系に生産を集中させる。

では、ぜいたく品の物価はどうなっているのか。実はぜいたく品は、ぜいたく品同士が競争している。

例えば「どうしてもフランス料理が食べたい」と言う人もいるが、あまりに割高なら「イタリア料理にしようか」ということになる。あるいはフランス料理店同士であっても、新しいところに行ってみよう、気分を変えたい、新しいメニューを試したい、日本料理とのフュージョンはどうなんだ、というふうに無限に新しい選択肢が存在する。

したがって、企業側、供給側も工夫して、斬新に見えるもの、試してみたくなるものを次々供給してくる。こうなると、厳密な価格の比較はできない。コストパフォーマンスの比較は厳密にはできない。

ただ、消費者のイメージ、受けた印象ですべてが決まる。だから、効率化よりも、消費者の気持ちを高揚させることが必要になる。これを広範な消費者に対して成功させ、その斬新さが明確な言葉で表現できるとき、人々はそれをイノベーションが起きたと認識し、賞賛する。

だから、イノベーションは儲かるのである。正確に言えば、大規模に儲けることに成功したビジネスモデルをイノベーションと呼んでいるのである。

今の「好循環」は消費者の犠牲のもとに成り立っている

こうなるとコストの優先順位は2番手だから、サービスを提供する労働者の賃金を、彼らが日常的に必要とする必需品のインフレ率の上昇に対応して引き上げて、ぜいたく品のイノベーションで儲けるチャンスを逃さないように労働者を確保する。

これが、もしかすると、現在、日本の多くの人々が期待している好循環かもしれないが、それは大きな消費者の犠牲のもとに成り立っている。ありていに言えば、新規性で目をくらませてぼったくりに成功しているのがイノベーションだから、企業は儲かるが、消費者は損をする。

それに消費者自身が気づいていないから、それでもうまく回っている、知らぬが仏で消費者は幸せだからいいんだ、みんなハッピー、というのかもしれない。だが、私は個人的に、ぼったくられて幸せだと思い込んでいる消費者ほど惨めなものはないと思うから、むしろ二重の意味で二乗に不幸だと思う。少なくとも自分はそういう目には遭いたくない。

次ページが続きます:
【日米の「インフレ率の違い」はこうして起きる】

5/7 PAGES
6/7 PAGES
7/7 PAGES

こちらの記事もおすすめ

あなたにおすすめ

政治・経済・投資

人気記事 HOT

※過去1週間以内の記事が対象