「インフレ率2%」は日本経済を破滅させてしまう なぜ無理に欧米と同じ基準を押しつけるのか

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だから、値上げのときはひたすら謝る。「原材料が上がって、もう赤字でどうしてもやっていけません。あらゆる努力はしたんですが、本当にごめんなさい」と言って10円上げる。

そんないい製品をつくって、顧客も満足しているなら、妥当な値上げは堂々とやったらよい。だが、経営者の努力不足で、消費者と対峙せず、逃げて、自分の言うことを聞く下請け、従業員にしわ寄せをすべて押し付けて、顧客への説得をしない。経営の怠慢である。

そもそも、日本の経営者、ビジネスマンは価格に対して鈍感である。価格こそ、いちばんの戦略変数であることに気づいていない。ビジネススクールで、マーケティング担当の教授がいつも嘆くのは「なぜみなさんは価格を戦略的に考えようとしないんですか」ということだ。

「早い、うまい、安い」はおかしい?

一方、これはすばらしい日本の美徳である。この結果、徹底したコスト効率、生産効率、改善が図られ、価格引き上げ、利益の引き上げとは無関係に、何とか顧客が今のままの価格でよりよい製品やサービスを享受できるように、全力で邁進する。

具体的に言えば、かつてのトヨタ自動車のカローラであり、吉野家の牛丼である。無駄を徹底的に排除し、究極の商品を究極の効率性で提供する。かつての「早い、うまい、安い」である。

前述のマーケティングの先生は「このキャッチコピーはおかしい。『安い』というのがキャッチコピーはありえない」という。上の議論と同じことであるが、日本に生活する消費者としては、それはとてつもなくすばらしいことであり、日本の魅力の1つである。

消費者もそれに付き合い、吉野家では1人で来店して黙々と食べ、ほぼ30秒で提供された牛丼を、3分程度で食べて帰っていく。だから回転率が上がり、安さが維持できるだけでなく、アルデンテ、牛丼の具、牛煮込みが煮詰まらずに最もおいしい状態で提供され続けるのである。

作り置きするとまずくなるし、作り立てでも時間とともに味は落ちる。私に言わせれば、吉野家は30分が賞味期限であり、それを徹底して実行してきたことがすばらしい。牛丼に集中することでそれが実現してきたのだが、それは残念ながら変わりつつあるが。客単価を上げようとして品目を増やしている。ある意味、正常化なのだが……。

このすばらしい日本経済、日本社会が、いま失われつつある。いや意図的に、日本社会を挙げて潰そうとしている。それが「なんとしてもインフレ率2%を達成する」という目標であり、「物価が上がる好循環」という政治のキャッチフレーズである。

終わりである。

日本社会の特性から生まれた日本経済においては、インフレ率は高くなりようがないのである。あのバブル期ですら3~4%だった。高度経済成長、2度のオイルショックを経て成熟化した日本経済においては、インフレ率は低くなるようにできており、それをぶっ壊すことは日本社会、日本経済を構造的にぶっ壊すこととなり、人々の生活、幸福度は大幅に悪化するのだ。

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