さらに、前述の日本の節約、効率化の美徳以上に、日本経済においてインフレ率が高まらない理由、通称小幡績理論(といっても当たり前の日本経済の特徴を整理したにすぎない。なぜかエコノミストたちが気づいていないだけのことだ)を以下に述べよう。
例えば、アメリカと日本の産業構造、企業行動の大きな違いはどこにあるのか。アメリカ企業はもちろん利益最大化を求め、その利益とは企業価値(株式価値)の最大化である。
一方、日本企業の目的は事業の継続である。事業および企業が永続的に存続することが最大最優先の目標である。だから、老舗企業、長寿企業が世界一多いのであり、それは家族経営の企業、中小企業だけでなく、上場大企業においても、ほとんどの企業においてそうである。
となると、事業撤退はできる限りしない。赤字が続いても、継続が完全に不可能になるまで、とことん頑張る。
日本企業は値付けが低すぎるだけ
こうなると、1つのインダストリーにおける企業数が多いままとなる。長期継続であるから、成熟産業が多い。価格競争となりがちである。なんといってもケチ消費者であるから、価格競争力は最優先課題である。だから値上げもできないし、起きない。コスト競争力は最強となる。
「日本企業の生産性が低い」というのは「生産効率が低い」という意味と勘違いされているが、そうではなく、値付けが低すぎるだけのことである。物理的な生産効率は世界一。サービス効率でさえも高い(ビジネスホテルの圧倒的な世界最高峰のコストパフォーマンスを見ればわかる)。
付加価値率が低いだけのことで、これはGDP(国内総生産)という付加価値の合計という価値観からすれば、生産性が低いということになるだけのことである。
一方、アメリカ企業は、企業価値最優先、利益率と資本効率、財務構造が最有力手段である。物理的な生産効率など二の次である。だから、利益率が低くなった成熟産業では、すぐさまM&Aである。業界再編をして、プレーヤの数を減らして、お互い(買収される側も買収する側も)利益率を引き上げて、ウインウイン、ハッピーである。
そこでは消費者だけが割を食い、品質は上がらないのに価格が上がった製品を買わされる。世界最強のブランドと自認していたアメリカ製紙会社が、日本の製紙の品質の圧倒的高さ、そして低価格で抜群のコストパフォーマンスの製品に驚愕し、撤退したのは有名な例である。しかし日本国内では、製紙会社が優秀で有望だと思っている人々はほとんどいない。しかし、製品はすばらしいのである。
つまり、日本においては、消費者がものすごく得をして、生産者が厳しい環境に立たされているのである。その厳しい環境が、日本の物理的な生産性、コストパフォーマンスの高さを生み出したのである。
結果的に、物価は低いまま。低所得者、年金生活者には世界一住みやすい都市の多い日本、となるのである。一方、アメリカでは、企業、供給側がしっかり儲かるように、必需品も価格が上がっていくのである。だからインフレ率は一定水準以上になる。
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