日朝関係改善をうたう岸田首相が読むべき本 日本通・宋日昊大使が書いた北朝鮮からみた日本
岸田文雄首相が北朝鮮との関係改善に乗り出す発言を繰り返している。2023年5月27日に、拉致被害者関係の集会で「私(岸田首相)自身、わが国自身が主体的に動き、トップ同士の関係を構築していくことが極めて重要」であり、「条件をつけずに金正恩委員長(総書記)と直接向き合う決意であり、自分が直轄してハイレベルでの協議を行っていく」と述べたことがその嚆矢だ。
また6月21日にも、「首脳会談を早期に実現すべく、私直轄のハイレベルで協議を行っていきたい。拉致問題の解決に向けて、全力で果敢に取り組んで行く」と述べた。
北朝鮮は故・安倍晋三元首相が「前提条件つけずに首脳会談を行いたい」との意思表明を行って以降、それでも拉致問題の解決に言及し続けたため、「すでに条件をつけているではないか」と反発を続けてきた。そのため岸田首相の一連の発言にも、「言葉と行動が違うのではないか」と疑っているようだ。
故・金日成主席と日本人との深い交流
では、日朝間での話し合いの接点は生じるのか。そのためには何が必要なのか。
それを考えるために、北朝鮮ウォッチャーの間で最近、1冊の本が注目されている。それは北朝鮮外務省の宋日昊(ソン・イルホ)大使が2015年に北朝鮮で出版した『金日成主席と日本』(北朝鮮・曙光編集社)だ。
著者の宋大使は日本との外交交渉などに長く従事し、「日朝国交正常化担当大使」を務めた、北朝鮮の外交関係者では数少ない日本専門家だ。安倍元首相も2023年に出された『安倍晋三回顧録』の中で、「北朝鮮外務省の中でも『日本との交渉は大事だ』と考えている人物であり、日本との交渉をまとめようという意欲があった人物」と言及している。
余談だが、宋大使は安倍元首相の父である故・安倍晋太郎元外相が入院中にお見舞いに訪れた時、安倍元首相とも簡単にあいさつを交わしたことがあるという。1980~1990年代に宋大使は日本をしばしば訪れ、政界を中心に日本とは太いパイプを持っていた。
そんな宋大使が『金日成主席と日本』の中で何を言っているのか。本書の大部分は、故・金日成主席と、訪朝するなどした日本の政財界、文化人との生前の交流エピソードを紹介した本だ。それは、<1945年8月15日から70年という長い年月を経た今日、新たな視座から歴史を振り返るとあれほど大きな傷跡を残してきた日々にも、多くの年輪を刻んだ巨木さながらに、今も燦然ときらめく、心温まるエピソードが多々あることを見逃すべきではなかろう。>と考えたためのようだ。
現時点で読み返したうえで注目すべきは、宋大使が前書きで日朝間の懸案を直接指摘し、とくに在日コリアンの処遇に言及している点だ。<反共和国(北朝鮮)勢力の世論操作により、拉致・核・ミサイル問題が両国の関係改善を拒む基本的障害であるかのように喧伝され、今なお不信と敵対感情、地域的緊張が解消されていないのは、悲劇というほかない。>と指摘している。
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