北朝鮮の「軍事偵察衛星」発射が示す不穏な覚悟 「常時戦争状態」へと入る北朝鮮の論理

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2023年5月31日、北朝鮮によるミサイル発射で沖縄県を対象に発令されたJアラート(写真・2023 Bloomberg Finance LP)

2023年5月31日早朝、北朝鮮は軍事偵察衛星を搭載したとするミサイルを発射した。ところが、同日「衛星打ち上げを実施するも墜落した。できるだけ早く第2次打ち上げを行う」と、北朝鮮国営・朝鮮中央通信が発表、失敗を早々に認めた。

これに先立つ5月29日、北朝鮮・朝鮮労働党中央軍事委員会の李炳哲(リ・ビョンチョル)副委員長は「6月に軍事偵察衛星1号機を発射する」との内容を含めた「立場表明」を発表していた。結局、6月ではなく5月に発射したことになるが、今回のミサイル発射からは、北朝鮮国内の不穏な様子が垣間見える。

副委員長の「立場表明」が持つ意味

「北朝鮮は着々と戦争への準備を進めている」。2023年に入り、北朝鮮から聞こえてくる話の大部分が、こういった物騒な話だった。確かに、アメリカと韓国は北朝鮮との対決姿勢を緩めていない。それゆえか――。

前述した「立場表明」を読むと、「アメリカなどの敵対勢力と戦争をする覚悟を決めており、そのための準備を万全にする」という意味合いがしっかり伝わってくる。

5月29日の「立場表明」には、「なぜ北朝鮮が軍事偵察衛星を持つのか」という理由がしっかり書かれており、かつ自国を取り巻く情勢を北朝鮮がどう判断しているかが、くっきりと浮かび上がってくるような内容だ。

この「立場表明」によれば、アメリカはこれまで、原子力潜水艦を展開したうえに「RC-135S」「U2」といった偵察機や無人戦闘・偵察機まで配備したと述べる。これによってアメリカ軍は、「首都平壌を含む北朝鮮北西部と周辺国家」まで監視下に置き、これが北朝鮮と周辺国家にとって深刻な脅威となっている、と主張する。

こうして、「常時配備水準へと格上げされた米核戦略攻撃手段が朝鮮半島に展開」されたゆえに、それに対抗し、米韓両軍の動きを監視するにはリアルタイムに米韓の動向を把握できる偵察衛星が必要となる、というのが北朝鮮の論理だ。

2022年、それまでやや鳴りを潜めていた北朝鮮のミサイル試射が一気に活発化して以降、北朝鮮は次のような考えに至ったと見られている。それは、「アメリカは韓国と手を結び、軍事的に北朝鮮へ対抗しようとしている」というものだ。

これには2021年1月に大統領に就任したアメリカのバイデン政権の対中政策、ひいてはアジア政策にも関係している。さらに2022年5月に、韓国には保守派の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が就任した。

尹大統領は、北朝鮮とは相対的に融和的な姿勢だった前政権とは違い、北朝鮮との対決姿勢を示している。それに北朝鮮側は対応するという意味合いのものだと、世界の北朝鮮ウォッチャーらは捉えていた。

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