北朝鮮の「軍事偵察衛星」発射が示す不穏な覚悟 「常時戦争状態」へと入る北朝鮮の論理

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だが、われわれの想像以上に北朝鮮は国内で着々と戦争準備を進めてきたとも言われている。北朝鮮との関係が深い中国の研究者は、次のように指摘する。

朝鮮中央通信のホームページに掲載された朝鮮労働党中央軍事委員会による「立場表明」(写真・朝鮮中央通信のサイトからのキャプチャー)

「北朝鮮は自らの作戦計画を、米韓と真っ向勝負するための計画へと練り直している。戦争をする覚悟だ。朝鮮労働党の中央軍事委員会は戦争を始める直前から本格的に稼働するものだが、それが動き始めた。地下施設の整備が行われ人の出入りも増えている。ここには2カ月分の食糧備蓄をはじめ、すべての生活・軍事用品があるとされる場所だ」

前述の「立場表明」は、中央軍事委員会の李副委員長によるものだ。中央軍事委員会が前面に出てきたということは、やはり戦争準備を全面的に行っているのかと思えてくる。

北朝鮮は2021年1月に開催された朝鮮労働党第8回党大会で「正当な防衛的措置」を講じることを決めた。この中には軍事偵察衛星の打ち上げが含まれていた。ただ、相手を「常時配備」していると見なすことで、自分たちも常時配備の態勢を取らざるをえないのだという大義名分が立つ。

北朝鮮は「正当な自衛権」を主張

北朝鮮は2023年5月28日、日本政府に対し5月31日午前0時から6月11日午前0時の間に「人工衛星」を打ち上げると通告した。わざわざのは、軍事偵察衛星発射はどの国も持つべき「自衛権」の一環なのだと世界へのアピールでもある。

5月31日の発射失敗に続き、2回目の発射を早期に行うとすれば、いつになるか。今回のように、発表どおりに発射しないことを考えると、結局は準備が出来次第、発射する可能性が至極高い。

あるいは7月の朝鮮戦争休戦日、9月の建国記念日、10月の朝鮮労働党創建日の国家的行事に打ち上げるのではないかとの見方もある。(東洋経済オンライン「まもなく発射命令? 北朝鮮の『軍事偵察衛星』とは」参照)

北朝鮮はこれまで1998年から2016年までに5つの衛星を発射している。うち、4つを「成功した」と発表しているが、実際には2つのみが成功したとみられている。

5月31日の発射は失敗したが、すでに北朝鮮は弾道ミサイルの発射技術と発射ノウハウを相当蓄積しているのは間違いない。彼らの軍事力とそれを実行する意志と力がどの程度であれ、核兵器を保有している可能性は高い。「戦争」を覚悟しているのであれば、米韓と同盟関係にある日本にも、それに備える覚悟が必要となってくる。

北朝鮮はこれまで核武装を自国に向けた攻撃を抑止するためと主張してきた。ところが最近、敵からの攻撃を感知すれば「先に攻撃する」といった姿勢に変化しつつある。今後も、戦争を始めるのはどちらかとなれば、北朝鮮は「アメリカや韓国のほうが先」と主張するだろう。

とはいえ、ちょっとした情勢の変化や、例えば韓国と北朝鮮との偶発的な衝突が、あっという間に戦争へと発展するリスクは少なくない。そうなると、日本もその影響を確実に受けることになる。

今回の軍事偵察衛星を「万里鏡」と名付けた北朝鮮。仮に打ち上げが成功した場合、その性能いかんにかかわらず、日本の安保環境にとっても不安材料がまた増えることになる。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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