日朝関係改善をうたう岸田首相が読むべき本 日本通・宋日昊大使が書いた北朝鮮からみた日本

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そのうえで、<日本在留が4代を数える今日に至っても、在日朝鮮人が不当な政治的理由をもって差別され、迫害され、あまつさえ人間憎悪と弾圧の対象となり、基本的人権さえ蹂躙されている>と付け加えている。

このような宋大使の著述には、日本は北朝鮮を少しでも理解しようとし、かつ日本人と身近な在日朝鮮人の問題や処遇を改善してほしいというメッセージが込められている。現在、高校教育無償化や幼稚園・保育園の無償化といった措置が、朝鮮学校系の教育機関には適用除外とされている。こういった在日朝鮮人に対する政治的な措置をまずはやめてほしいという意味にも取れる。

実は、冒頭で紹介した岸田首相による一連の発言は、北朝鮮にとって好意的に受け止められている(「岸田首相のメッセージに反応した北朝鮮の意図」参照)。一方で、北朝鮮は「やはり言葉に行動が伴わないのでは」とも考えているようだ。

2023年6月29日、北朝鮮外務省・日本研究所は「国連は主権国家を謀略にかけて害する政治謀略宣伝の場になってはならない」という文章を発表した。これは同日開催された拉致問題に関するオンライン国連シンポジウムに当てたものだ。

「拉致問題は解決済み」姿勢崩さぬ北朝鮮

同研究所はここでも、<「拉致問題」については、すでに逆戻りできないように最終的に、完全無欠に解決された><「前提条件のない日朝首脳会談」を希望すると機会あるたびに言及している日本当局者の立場を自ら否定することと同様である>と指摘し、日本に対する強硬姿勢は変わっていない。

宋大使の著書の内容には、日朝間が厳しい時期でも日本のさまざまな分野の人との対話があったことを記録している。現在でもそのような対話こそが必要だというのが1つのメッセージのようだ。

宋日昊大使が2015年に出版した『金日成主席と日本』。日本語版と朝鮮語版の各上下巻で刊行された (写真・曙光編集社提供)

これまで、拉致問題は解決済みで、核開発・ミサイルも自衛手段だというのが北朝鮮の立場だ。一方の日本は拉致問題を2002年の時点から完全解決に向けて前進させ、核開発・ミサイルといった安全保障上の問題をも取り除きたいという立場だ。双方の主張は互いにかみ合っていない。

宋大使は本書の最後で日本に対し、「戦後も日本政府は過去を反省、侮悟することなく、厚顔無恥な朝鮮敵視政策を追求し、いまなおこれに熱を上げている」と批判する。

ただ、「こうした状況下にあっても、真理と正義を重んじ、変わることなく朝鮮との友好親善をはかり、不断の努力に傾注してきた多くの日本の友人たちがいることをわれわれはよく知っている」とも述べている。

これは北朝鮮の強硬な対日姿勢を維持しつつも、そういった日本の良心に応える用意はあるのだという、いわば柔軟な考えも持っているということだろうか。

いずれにしろ、北朝鮮の論理はこのようなものだろう。ここから北朝鮮を日本側に呼び寄せることができるように、岸田首相が主体的に、直轄してハイレベルの協議をどうやっていくのか。安倍元首相の発言や「戦略的忍耐」という無策を続けたアメリカのオバマ元大統領やバイデン大統領とは一線を画し、日朝関係を本当に動かしたいのか。発言した以上、それは問われる。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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