32歳校長「国公立大0→20人合格」させた凄い改革 定員割れだった「福岡女子商業高校」の奇跡

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女子商に来て最も印象に残っていることを問うと、「たくさんあります」と言いつつ、こんな話を聞かせてくれた。

「着任した最初の年、僕の説明会を聞き、和歌山大学に進学したいと小論指導に参加してくれた生徒がいました。でも、ご両親ともに進学には反対で、三者面談でも大学は考えていませんと。彼女が家で勉強していたら『まだ受験勉強をしているのか』と言われ、勇気を出してオープンスクールに行きたいと伝えても『大学進学は難しいと言っただろ』と怒られたらしく。

実は、彼女は誰よりも一生懸命小論文に取り組んでいて、こんなに頑張っているのに受験すらできなかったらどうしようと気を揉んでいました。

でも、8月末に彼女が飛んできて『お父さんが、もしまだオープンスクールに行きたいと思ってるなら、車で送っていこうかと言ってくれた』とブワーっと泣いて……。どうやら彼女が頑張って小論文対策をしているのを見てくれたらしいんです。

結局、受験前にご両親からお守りももらって、無事に合格しました」

卒業式では保護者から「まさかこの子が受かるなんて……先生ありがとうございました」と声をかけられることが多いという。

「社長の孤独」という言葉が示すように、校長として大変なこともたくさんあるという柴山さん。しかし、やりたいことに全力で取り組み、学校の新たな可能性を追求できる環境にこの上なくワクワクしている。

「もっと社会とつながり、生徒たちが思いや能力をのびのびと発揮できる、日本一の商業高校を目指します。生徒や教職員や保護者、地域の方など、たくさんの人たちと一緒に挑戦を楽しみたい。学校は変わらないと思われがちですが、校長の覚悟とやり方次第でいくらでも変えられる。変わると信じて行動する教師が増えれば、日本の未来は変わりますから。学校だけでなく、年齢にかかわらず、誰もが挑戦を楽しめる社会になるといいですね」

映画上映会・対話の会を開催

2023年6月のある土曜日、女子商で映画上映・対話の会が開催された。保護者や誰でも参加できるイベントで、自由な学校のドキュメンタリー映画『夢見る小学校』を全校生徒と一緒に体育館で鑑賞。

有志の生徒と教職員、保護者が集まって開かれた対話の会。柴山さんも一参加者として輪に入っていた(写真:筆者撮影)

さらに自由参加の対話の会では、柴山さんや生徒、教職員、保護者など100人ほどがあたたかい雰囲気の中で活発に思いや考えを交わしていた。会の最後、柴山さんはこんなふうに語りかけた。

「僕はこんな景色が見たかったんです。今日は心強さを感じました。僕も何かを決めるときには勇気が必要で、これでいいのかと夜な夜な考えて。これからも定期的にこんな会を開いていきたい」

32歳の校長・柴山さんは、思いを語り同志を集めながら、これからも挑戦を楽しんでいく。

佐々木 恵美 フリーライター・エディター

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ささき えみ / Emi Sasaki

福岡市出身。九州大学教育学部を卒業後、ロンドン・東京・福岡にて、女性誌や新聞、Web、国連や行政機関の報告書などの制作に携わる。特にインタビューが好きで、著名人や経営者をはじめ、様々な人たちを取材。

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