西欧諸国につきまとう「植民地支配」賠償の悪夢 アジア、アフリカ諸国からの賠償要求は今後も続く

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確かに、それは完全な矛盾である。この矛盾こそ資本主義が長く続かない理由だと、彼女は主張するのである。この書物の最終ページでは、大胆にもこう語られる。

「資本主義は、伝搬する力をもった最初の経済形態であり、地球上に拡大して他の一切の経済形態を駆逐する傾向をもち、他の経済形態と併存することを許さない、そういう経済形態である。しかし、資本主義は同時に、自己の環境と培養土としての他の経済諸形態なしには、一人で存在することのできない経済形態である。―――資本主義は、それ自身において、一つの生きた歴史的矛盾であり、その蓄積運動は、矛盾の表現であり、矛盾の不断の解決であると同時に矛盾の強化である」(『資本蓄積論 第三編』小林勝訳、御茶の水書房、2013年、219ページ)

 

植民地は、最初は非資本主義的な赤裸々な搾取を受ける地域として、西欧資本主義社会の利益のために、むさぼりとられる。つまり、超安価の原料と燃料、そして奴隷としての労働によって、膨大な利益が奪いとられるのである。

しかし、その資本主義は一方で、その植民地を資本主義化していき、次第によりもっと洗練された形で利益を吸い上げていく。つまり植民地を独立させ、政府を建設し、民主化も図りながら、利益を合法的に奪っていくというのである。

インドもアジア・アフリカ諸国も、植民地時代の赤裸々な強奪に対して「賠償金」を払えと述べているのだ。もちろん、そうしたことが言えるようになったのは、皮肉にも先進国がこれらの国を資本主義化し、発展させたことにある。

だからこそ、西欧ではアジア・アフリカ諸国の啓蒙に果たした役割を逆に強調することで、こうした賠償金を支払う義務などはないという議論も出てくる。

西欧資本主義は持続可能か

払う、払わないといった論理は、確かに一筋縄ではいかない。しかし、資本主義化したアジア・アフリカ諸国は、最近BRICSなど次第に西欧諸国に対して強い態度に出始めていることは重要である。

西欧諸国にとってこの地域の市場を失うことは、経済成長の実現の意味からいって致命的である。1国や2国ならば、無視することも可能である。しかし、こう徒党を組まれると譲歩するしかない。最近では、西側通貨もいらないと言っている。

原料と燃料、最大の消費者をもつアジア・アフリカ地域が、西欧資本主義のシステムの外に出て行けば、それは西欧資本主義の危機といってもいい。

結局、植民地時代の搾取、そして今も残る不等な交換が是正されないと、西欧資本主義のシステムそのものが動かなくなるのである。アガサ・クリスティの小説の題名「終わりなき世に生まれつく」ではないが、西欧諸国はこの終わりのない賠償の悪夢に、今後ずっとつきまとわれるのである。

的場 昭弘 神奈川大学 名誉教授

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まとば・あきひろ / Akihiro Matoba

1952年宮崎県生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。日本を代表するマルクス研究者。著書に『超訳「資本論」』全3巻(祥伝社新書)、『一週間de資本論』(NHK出版)、『マルクスだったらこう考える』『ネオ共産主義論』(以上光文社新書)、『未完のマルクス』(平凡社)、『マルクスに誘われて』『未来のプルードン』(以上亜紀書房)、『資本主義全史』(SB新書)。訳書にカール・マルクス『新訳 共産党宣言』(作品社)、ジャック・アタリ『世界精神マルクス』(藤原書店)、『希望と絶望の世界史』、『「19世紀」でわかる世界史講義』『資本主義がわかる「20世紀」世界史』など多数。

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