IoT家電規格「黒船襲来」に日本勢はどっちつかず スマートホームでも日本は「ガラパゴス化」?
「マターでは製品1台当たりのロイヤルティーが発生しない。自社規格の開発などで費用もかからないため、それらのコストが製品価格に転嫁されない点は消費者にもプラス。アメリカの国家安全保障局が極秘プロジェクトで採用する楕円曲線暗号を使用しており、セキュリティも非常に高い」
アリオンの中山英明社長は、利便性向上以外のメリットを挙げる。アリオンは品質保証テストなどを手がける会社で、台湾本社はIoT機器のマター対応を認証している。
アメリカの調査会社・IDCによると、今後スマートホームデバイスの市場は下の図のように一段の成長が見込まれる。ここでのスマートホームデバイスとは、スマートスピーカーやホームモニタリング用カメラなどの機器を指す。
日本企業もマターに熱いまなざしを送る。
パナソニックは、インドをはじめ新興国市場で展開する製品では積極的にマターに対応する方針だ。
「インドでのエアコンの普及率は10%と何でも売れる環境なので、インドに参入したい会社は多い。これまでコストを理由に参入しなかった企業でも、マターを利用すると参入障壁が低くなる。インドは英語圏なのでマターを主導するアメリカとの親和性も高い。急速に普及する可能性がある」
パナソニックインドの葛西悠葵ゼネラルマネージャーはそう話す。
海外売り上げ比率が9割に上る電子部品大手の村田製作所は、インフィニオンなどマターの規格策定を行う企業と協業、製品開発を進めてきた。スマホ部品で培った小型化の技術を生かし、2021年より順次、マターに対応した、Wi-Fiなどの通信を行うためのモジュール10製品を販売している。
「マターに商機を期待している。当社はCSAに参加する半導体ベンダーすべてと付き合いがあり、彼らの戦略に乗ろうとすると、マターに対応しないといけない」。通信モジュール事業部で商品企画を担当する角川絵里子氏は力を込める。
拡大が期待されるマターにも課題はある。プライバシーにかかわる情報の扱いだ。たとえば遠隔で施錠できるスマートキーの利用状況から、在宅・外出の状況などが把握される可能性がある。ある家電メーカーの社員は次のような懸念を示す。
「アップルのiOSでスマートホームの機器登録をするとプライバシーポリシーは出てこないし、プライバシーポリシーにデータの取り扱いが書かれていない。当社の家電をマターに対応させることはできるが、どうプライバシーを取り扱うか消費者に提示できない」
アリオンの中山社長は「プライバシーについてマターを推進する各社間で温度差がある」と指摘。そのうえで個人的見解として、「(大手IT企業などの)プラットフォーマーはヨーロッパなどで訴訟問題を起こした経験も踏まえて、個人情報保護やプライバシーに力を入れて公正なことをするのではないかと思う」と述べる。
独自規格が乱立する日本
プライバシーなど解消すべき課題はあるが、世界的には普及が進むとみられるマター。だが、日本企業であっても日本市場向けの製品ではマター対応への動きが鈍い。高価格帯の家電で人気が高いパナソニックも、冷蔵庫やエアコンでシェアが高い三菱電機も、日本市場では様子見の姿勢だ。
2022年11月時点でCSA参加企業の国籍は南北アメリカが30.9%、ヨーロッパ・中近東・アフリカが39%、中国が24.1%。それに対し、アジア太平洋・日本は6%にとどまる。日本企業が少ない背景には、ガラパゴス化ともいえる日本の状況がある。
日本では2010年代後半からIoT家電が増えていったが、広く使われているとは言い難い。三菱電機だと、クラウドにつながる製品のうち、実際につながっているのは約20%にとどまる。しかもこの数値はエアコンが大きく押し上げており、冷蔵庫をネットにつなげている人は10%にも満たない。
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