防衛省「パワードスーツ」構想は濫費である 新たに開発する必要がない理由<上>

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フランスのDGAが開発している「ヘラクレス」

民生用のパワードスーツは介護や四肢に不自由な人の歩行の補助や義足、義手などの医療現場用、また倉庫作業などの産業用などでの使用目的として手脚の能力を強化するものが多い。だが軍用では、フランスのDGA(国防省装備庁)が開発しているヘラクレス(主契約社はRB3B社)や米ナティック・ソルジャー研究開発センター(主契約社はロッキード・マーチン)のHULC (Human Universal Load Carrier)をはじめ、重い荷物を背負い、運ぶことを目的としている。

つまりは輸送用だ。このため脚部の能力強化に特化され、腕部はオミットされている。HULCは2012年以来目立った動きがないが、同社のより産業ユースを意識したフォルティス・エクスケルトンは2014年、米海軍が艦艇のメンテナンス作業用に有用かどうか評価するために少数の導入が決定された。これは同製品としては初の受注となる。ヘラクレスは2014年のユーロサトリでもDGA(国防省装備庁)のブースで改良が進められた最新型が展示されていた。恐らくは実用化に最も近いのはこのヘラクレスだろう。

高速での移動も重視

今度の技本の研究では人体の能力と合わせて50キログラムの荷重を背負い、時速13.5キロメートルでの移動の実現を目指している。バッテリーの駆動時間は荷重50キログラムで2~3時間、荷重30キログラムで24時間程度を目標にしている。ちなみにロッキード・マーチンのHULCはリチウム電池を使用し、約90キロの荷物を背負って時速4キロメートルのペースで20キロメートルの距離を移動できるという。

諸外国では重量物を運ぶことに重点をおいた研究が主であるが、本研究ではより速い速度で機動できることを重視するという。バッテリーの稼働時間などから基本的には徒歩の普通科部隊単独の運用ではなく、装甲車輌などを起点とした運用を想定しているようだ。ただ運用構想などは試験などを通じて今後陸幕の意見なども取り入れていくとのことだ。想定される調達単価は1000万円を目標とする。

先述のようにすでにパワードスーツはサイバーダイン社が医療用などして商用化している。またパナソニックの子会社のベンチャー企業、アクティブリンク社は2015年から軽作業向けのパワードスーツ「パワーローダー(TM)ライトPLL-04忍者」を物流や検査用の作業支援として発売する。

人力と併せて30キログラムの荷物をハンドリングでき(スーツのアシスト力は15キログラム)、時速4~12キロメートルで移動が可能で、バッテリーの稼働時間は2時間程度だ。価格は約50万円を想定しているという。

独自の開発よりもこのような民生品を活用し、改良を加える方がコストも安く上がり開発もより容易なのではないかとの疑問が持ち上がる。この疑問に対して防衛省経理装備局の南亜樹専任部員は、防衛省で開発するものは隊員の背部に重量物を搭載し、不整地を相応の速度で踏破することを目指しており、求められる能力が異なると説明する。民生用は主に平地、しかも室内で使用が想定されているが、軍用の歩兵部隊を想定したものは凸凹のある不整地の踏破能力や、過酷な環境での使用に際しての堅牢性や耐水性、作動温度の範囲などもよりシビアなものが求められるというわけだ。

しかし、今回の戦闘用のパワードスーツ開発は率直に申し上げてムダである。その詳細は後編で解説する。

※後編は5月3日(日)に公開予定です。

清谷 信一 軍事ジャーナリスト

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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani

1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

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