そもそも最盛期のソ連軍ですら日本に対する揚陸能力とそれを支える兵站能力は保有しておらず、日本に対する侵攻作戦も想定していなかった。
そうであれば陸上自衛隊は普通科(歩兵)の装備の近代化、能力充実を図るべきだった。また隊員の生命を守り、生存性を高める努力が必要だった。アメリカ軍などではアフガンやイラクの戦闘で多大な犠牲を出したが、ベトナム戦争と比べれば負傷した将兵の救命率は格段に向上している。それだけの投資を行っていたからだ。
だが陸自の普通科の装備の近代化の投資は遅れ、後回しにされ続けてきた。率直に言って、アフリカあたりの開発途上国と大差ないレベルだが、陸自幹部たちはこれだけアメリカ軍と共同訓練を行っているのに奇異に思ってこなかった。敵の戦車部隊が揚陸してくることはない、というのに戦車の整備に多額の投資をしてきたのだ。
欧米では90式と同じ第3世代の戦車を近代化することで対処してきたが、陸自は90式を近代化することなく、1000億円をかけて新型の10式戦車を開発し、1両15億円ほどで調達している。90式を改良すればほぼ同等の性能ではるかに安価に済んだはずである。10式導入の最大の理由は戦闘重量44トンという軽量さにある。90式で実現できないのは軽量化だけだ。
全国の主要国道の橋梁1万7920カ所の橋梁通過率は10式が84%、50トンの90式が65%、62~65トンの海外主力戦車は約40%とされている。つまり90式でも重すぎて北海道以外では使いにくい、10式ならば増加装甲と燃料弾薬を抜けば40トンになり、本土の多くの部分に迅速に展開できる、というのが防衛省と陸幕の言い分だ。
だがこれまで述べてきたように本土で戦車戦が起こる蓋然性は極めて低い。また島嶼防衛でも重量がかさむ戦車は必要とされない。50トンの90式でも大した問題にはならない。
買い物下手が防衛予算を圧迫
しかも小火器などの調達単価は国際価格より1桁高いという。これは輸入品も同じなのだが、それは調達システムがデタラメだからだ。このような買い物下手が本来必要な予算を圧迫している。
陸幕は長年本来起こりうるゲリラ・コマンドや島嶼防衛に不可欠な普通科の装備の近代化を怠り、本土での戦車戦を夢見て戦車を偏愛していたと言えよう。まさに「へぼ将棋、王より飛車を可愛がる」である。
このような防弾装備の軽視や低い生存性のままでは有事は戦えない。またこのような人命軽視の現実を知れば、ただでさえなり手が少ない自衛官のなり手はさらに減るだろう。
本当に差し迫った脅威は何なのか。予算の優先順位をどうするのか。筆者には陸幕が真摯に有事を想定しているとは思えない。このような当事者意識と能力の欠如を放置して防衛費を2倍にしても有効に使用されるとは到底思えない。
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