大学生が「食塩水の濃度」を計算できない驚く現実 「やり方」の暗記だけを教えられてきた悪影響

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このような実態に関心を払っていたからこそ、2020年末に『AI時代に生きる数学力の鍛え方』(東洋経済新報社)を刊行して「暗記でなく理解の教育」を訴え、昨年末には『中学生から大人まで楽しめる算数・数学間違い探し』(講談社+α新書)を刊行して「理解せずの学びは間違いのもと」を訴えた。

現在、教員の過労問題が大きく取り上げられている。それゆえ、「教科指導の研究までは目が向かないから、やり方の暗記教育で誤魔化すしかない面がある」という教員サイドからの意見が数多くあることは承知している。

実際、何年か前に筆者のゼミ生が教育実習に行った先で(九州の大都市)、実習の指導教諭から「この地区は学校が荒れている。教科の指導を夢見ていたら大間違いだよ」と言われたほどである。

また、筆者の東京理科大学時代のゼミ卒業生は、「数学を教えることは大好きだけど、生徒指導等の負担が厳しすぎる」と言って、公立学校の採用試験を受かって専任教諭であったものの、あえてそれを辞職して、薄給の非常勤講師として頑張っている。

機能していなかった「教員免許更新制」

筆者は1990年代後半から、小中高校への出前授業ばかりでなく、全国各地の教員研修会での講演も積極的にお引き受けしていた。ところが2009年に、10年に一度の「教員免許更新制」が導入され、事態は一変した。

しばらくの間はこの制度の実態を知ろうと思い、何箇所かの免許更新講習の講師を積極的にお引き受けしたが、その実態は矛盾に満ちたものであることを悟った。そこで、2013年に出版した拙著『論理的に考え、書く力』(光文社新書)には次のことを述べた次第である。

毎年、あちこちの会場で免許更新講習が行われているが、教育現場にまったく興味をもたない大学教員が自分の専門のトピックスをばらばらに話しているだけのところが多く、昔からあった各自治体での定期的な教員研修制度のほうが、現場を考えての研修だけにずっと機能していたと断言できる。

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