大学生が「食塩水の濃度」を計算できない驚く現実 「やり方」の暗記だけを教えられてきた悪影響

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そもそも「不適格教員」の問題は、この制度ができる前に対処の方法が確立していたのであり、何のための制度かさっぱり理解できない。せいぜい、教員の身分が不安定になったように印象づける制度かもしれない。それによって失ったもののほうがはるかに大きいと考える。

そして昨年(2022年)になって、ようやく教員免許更新制は廃止されたのである。この免許更新制度がいまだに続いていたらと思うと、ゾッとする関係者は大多数であろう。

筆者はそのように、なるべく教員の教科指導に関する研究に充てる時間の確保のために全力で頑張ったのである。しかし多勢に無勢で、その制度の廃止までに相当な時間を要したことが残念でならない。

そのような「行動歴」のある筆者ではあるが、それでも冒頭の問題を間違えて大学生になる者が相当多くいる現状には、「できるところから改善する努力をすべきではないだろうか」と提案したい。

ほぼ同じ問題で1983年のほうが高かった正解率

2012年度の全国学力テスト(中学3年対象)に出題された食塩水の問題(編集部撮影)

2012年度の全国学力テストから加わった理科の中学分野(中学3年対象)で、10%の食塩水を1000グラムつくるのに必要な食塩と水の質量をそれぞれ求めさせる問題が出題された。

これに関して、「食塩100グラム」「水900グラム」と正しく答えられたのは52.0%に過ぎなかった。実は1983年に、同じ中学3年を対象にした全国規模の学力テストで、食塩水を1000グラムではなく100グラムにしたほぼ同一の問題が出題された。この時の正解率は69.8%だった。

ほぼ同一の問題で行った2つの大規模調査結果で、正答率でそのような大差がつく状況を鑑みると、算数や中学数学に関する基礎概念の教育を徹底する指導を優先していただきたい。

それなくして、理系分野を専攻する大学生の割合を現在の35%から50%に増やす政府の教育未来創造会議が掲げた目標は、絵に描いた餅になるだろう。

芳沢 光雄 数学・数学教育者

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よしざわ みつお / Mitsuo Yoshizawa

1953年東京都生まれ。東京理科大学理学部教授(理学研究科教授)、桜美林大学リベラルアーツ学群教授などを歴任し現在、桜美林大学名誉教授。理学博士。国家公務員採用I種試験専門委員(判断・数的推理分野)、日本数学会評議員、日本数学教育学会理事も歴任。著書に『AI時代に生きる数学力の鍛え方』(東洋経済新報社)、『新体系・大学数学入門(高校数学、中学数学)の教科書(上・下)』(ブルーバックス<講談社>)などがある。数学プロセス (https://sugaku-process.net/)というホームページも運営

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