「NHKのネット展開」副会長の“謎発言"を読み解く ネットでも放送と同じことしかやらないのか?
そしてまたつねに話題に上ったのは、NHKが必須業務化でどのような新たなコミュニケーションをしていくのかだ。「公共放送から公共メディアへ」を掲げるNHKがネット上で何をすることで公共的な役割を示すのかが問われていた。
5月26日の「公共放送WG第8回」ではNHK自身がネットで何をやるかを発表する日だった。通常は理事が出てくることが多いが、この日は井上樹彦副会長がプレゼンした。傍聴する側としては、これまで概念的にしか語られなかった「公共メディア」の姿が、初めて具体的に語られるのだと期待していた。
ところが井上副会長のプレゼンは要領を得ないものだった。サンドイッチマンの定番ギャグをまねて「ちょっと何言ってるかわからない」と言いたくなる。会議はリモートで行われたのだが、モニターの向こうにいる有識者たちの失望とモヤモヤが伝わってきそうに感じた。
「放送と同様の効用」とはどういう意味?
案の定、質疑の時間では有識者からの質問が次々に出た。とくにツッコミが入ったのが、プレゼンの中でぬるっと出てきた「放送と同様の効用」という言葉だ。「NHK+」とテキストでニュースを伝える「NEWS WEB」が基本で、それ以外は「放送と同様の効用が、異なる態様で実現されるものについて実施」と謎の呪文のようなことが書かれており、何のことを言っているのかわからない。
ただなんとなく感じたのは、「放送と同じことしかやらない」と言っているらしいことだ。ものすごく消極的に見える。「必須業務化」を後押しする空気で進んできたこの会議を台無しにしたいのか?
さらに「効用」という言葉は経済学では消費者個人について使う用語で、「放送と同様の効用」という使い方はひどく雑に見える。有識者の中には経済学者もいて、疑問を強く示した。
そのうえ、有識者たちの質問に対する井上副会長の回答が輪をかけて要領を得ないもので、逆に理解が遠のくばかり。進行役を務める座長の早稲田大学大学院・三友仁志教授は「質問への回答になってない部分もありました」と不快感を示した。いつも冷静かつ温和に会議を進める三友座長が怒りをあらわにした言葉で戒めたので驚いた。ところが井上副会長はのらりくらり、有識者たちの不快感をわかっているのかいないのか、最後までモヤモヤした説明に終始した。
さらに翌週、5月29日にダメ押しのような報道があった。「NHK、ネットの文字ニュース縮小を示唆 自民党調査会で」(日本経済新聞、5月29日)の見出しでネットニュースが出たのだ。自民党の情報通信戦略調査会という場でまたもや井上副会長がNHKのネット活用について説明し、「映像や音声がともなったものに純化したい」と述べたという。テキストのみのニュースをネットで配信することに関して「放送と同等と言えるか、意見が分かれる」とも述べたとあり、「放送と同等」が重要でテキストニュースは不要と考えているらしい。
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