アメリカ建国の父の逸話に仕事人の本質が映る訳 古典「フランクリン自伝」を読んで学べること
図書室を発展させた公共図書館の設立についても同じ成り行きだった。フランクリンが生涯をかけて追求した実利は自分を向いた損得勘定にとどまらなかった。コミュニティや社会全体の利得の極大化を志向するものだった。フランクリンの欲は自分の利得だけでは満たされなかったのだ。それだけ欲が深かったと言ってもよい。
フランクリンがつくった公共図書館はその後アメリカに数多く生まれた会員制図書館の原型となった。「図書館ができたことで、この国の人々は知的な話ができるようになった。平凡な商人や農民が、いまや他国の紳士たちに劣らないほどの教養を身につけている。すべての植民地の住民が、自分たちの権利を守るために戦えたのも、図書館があったおかげではないかと私は思っている」――自分の実利的動機から始まった活動が社会全体のスケールで実現して、ようやくフランクリンの欲は満たされることになる。
1742年にフランクリンは「ペンシルベニア式ストーブ」を発明している。新しい空気を取り入れることによって暖まるという開放式のストーブで、従来のものより暖房効率がよく、燃料も節約できた。彼はストーブの宣伝のために「新発明のペンシルベニア式ストーブについて」と題したパンフレットを発行した。パンフレットは知事の目にも留まり、フランクリンに専売特許権を与えようとした。
きっかけは日常のちょっとした問題解決
しかし、フランクリンはその申し出を断っている。自分も他品の発明から多大な恩恵を受けているのだから、自分の発明についても、人の役に立てることを喜ぶべきだ、というのが彼の主張だった。
「やがて私のストーブは、ペンシルベニアだけでなく近隣の植民地にも広まっていった。いまでも多くの家庭が、薪を節約できるこのストーブを使っている」――これがフランクリンにとって最も嬉しいことであり、彼にとっての最大の「実利」だったのだ。
フランクリンのプラグマティズムはいくつもの大成果として結実した。しかし、彼の実利を求める姿勢は一攫千金の大勝負とは一線を画していた。その手の「大勝負」は実際のところごく小さな私欲を動機としているものだ。
先の図書館の例にあるように、ほとんどの場合きっかけは日常生活の中にあるちょっとした問題解決にあった。「人間の幸福というのは、ごくまれにやってくるすばらしい幸運からではなく、日々の生活のなかにあるささやかな利益から生まれるものだ」――これがフランクリンの信念だった。
当時のフィラデルフィアの道路は舗装されていなかった。雨が降ると、重い馬車の車輪で地面がぐちゃぐちゃになる。空気が乾燥すると、土ぼこりが舞って大変なことになる。これを不便に思ったフランクリンは道路を舗装すべきだという主張を文章にまとめて発表し、問題解決に注力した。
その甲斐あって、やがて道路の一部が石で舗装され、靴を汚すことなく通りを歩けるようになった。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら