佐藤晴真氏が語る「チェリスト」の奥深い世界 新進気鋭の演奏者が引き寄せられた音楽の魅力
──アルバム全体で佐藤さんがポイントだと考えているところは?
アルバムタイトル曲の「歌の翼に」はその名のとおり歌曲集の中の1曲で、メンデルスゾーンの楽曲では比較的よく知られた作品です。
メンデルスゾーンは、クラシック界でもそこまで聴かれる機会が多くない作曲家です。コンサートで好まれるような、演奏効果の高い派手な曲は少ないという感じでしょうか。
一方で、メンデルスゾーンには、極めて美しい作品が多い。シンプルで美しい。ただ、シンプルゆえに美しさを表現するのが難しい面もあります。
「歌の翼に」には、とてもロマンチックな歌詞がついています。言葉で描かれた情景を、チェロの音のみでどれだけ再現できるか。難しいけれど、そこに歌曲を楽器で演奏することの妙味がある。聴いてくださった方にそんなことも感じていただけたらなと思っています。
僕は自分のアルバムでは毎回、歌曲を取り上げるようにしています。チェロは人の声に近い音を出す楽器。しかも僕自身の声域とチェロの音域は完全に同じ。どれぐらい自分で歌っているようにチェロを弾けるか。そんな挑戦も含めて、歌曲を弾いています。
もっと音楽を理解したい
──2020年の『週刊東洋経済』のインタビューでは、「あまり特定の作曲家にこだわらず、いろいろ弾いていきたい」と話されていました。今も同じですか。
そうですね。デビューアルバムはブラームス、セカンドはドビュッシーとフランク、今回はメンデルスゾーンに取り組みました。今後も、いろいろな作曲家を取り上げて、1つのテーマに沿ってアルバムを作っていきたい。
そのためには、多くの作曲家、そして時代や国を知る必要があります。何にフォーカスして、どういうテーマで、どんなピアニストと一緒に、1枚1枚のアルバムの世界観を作るのか。深く考えていきたいと思っています。
──チェリストとしての今後の目標や野望はありますか。
チェロという楽器は1人ではほとんど弾くことができない。弾ける作品自体は少なくないけれど、やっぱり僕は室内楽で、誰かとセッションしたい。会話が生まれる音楽が好きなんです。
クラシックの本来の姿は生演奏です。演奏者同士だけではなく、お客さんと空気を共有することがクラシックでは最も重要なのではないかとも思う。今後も多くの音楽家と共演を重ね、多くの人の前で演奏して自分も成長していけたらなと。
まだまだ勉強できるはずなので。野望といえばそれでしょうか。
──一方で、国際コンクールでの優勝やチェリストとしての知名度獲得といった目に見える成果を上げています。
あんまり自覚がないからできたのかな。自分で「自分は成功してる」と思ったら、思い始めたら、終わりなんでしょうね。
今はそういう感覚よりも、自分が楽しみたいとか、誰かの心を楽しませたいとか、少しでも誰かの救いのようなものになりたいとか。それに加えて、作曲家を理解したい、作品を理解したい、チェロという楽器を理解したい。
音楽に対する根本的な興味がいまだに大きく自分の中にある。これからもずっとそれを大事にしていきたいなと思っています。
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