ベルリンでの1年間を終えてオックスフォードの多忙な生活に戻った数カ月後、デイヴィッドはニュージーランドにポストを得た。またスティーヴは、キャリアの大半を海外で過ごしたオーストラリア人科学者を本国に呼び戻すために特別に設置された、オーストラリア研究評議会連邦フェローシップを得て、シドニー大学に着任した。このフェローシップは自由度が高く、新しく刺激的な研究プログラムを立ち上げることだけを求められた。
私たちがシドニーで最初に取り組んだプロジェクトの1つが、スイス山小屋研究の強化版である。
強化版は、もとの研究の2つの不確かな側面を制御することを目指していた。
第一に、もとの研究では実験食の嗜好性(おいしさ)の違いを考慮に入れていなかった。もしかすると、被験者は用意された高タンパク質食の味を嫌い、そのせいで高タンパク質食だけを与えられた際に、食が進まなかったのかもしれない。またもしかすると低タンパク質/高炭水化物・高脂肪食の被験者は、実験食の味をとても気に入り、体が欲する以上に食べてしまったのかもしれない。
いいかえれば、タンパク質の摂取量がつねに変わらなかったのは、まったくの偶然だった可能性がある。
第二に、自由選択段階と制約段階での食事の摂取量の違いは、提供された食品数の違いによるものだったのかもしれない。
自由選択段階では、制約段階の2倍の数の食品から選ぶことができた。多様性が被験者の摂食に影響をおよぼしていた可能性がある。
今回の実験では、すべてのメニューで同数の食品を提供しつつ、タンパク質比率の違いを何らかの方法で隠し、また食品のおいしさに差がないようにしたかった。
科学的探究の多くが、このような方法で進行する。重要な意味をもち得ることが観察されると、それが真実であり、それ以外の説明がないことを証明するために、新たな実験が設計されるのだ。
低タンパク質食で「摂取カロリー」が12%増
シドニーでのプロジェクトには、栄養科学者アリソン・ゴスビーの助けを借りた。
彼女は苦心しながらも巧みに28種類の食品を設計し、それらを組み合わせて朝食、昼食、夕食、軽食のメニューをつくった。
すべての食品につき、総エネルギー(カロリー)は同じでタンパク質比率が10%、15%、25%の3つのバージョンを用意した。また各食品の3つのバージョンは、実験の被験者でのテストにより、嗜好性が同等であることが確かめられた。