日本人が「一汁三菜」に強いこだわりを持つ事情 令和になっても家事に残る「昭和型の価値観」

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阿古:2017年に東洋経済でミールキットの記事(「昭和飯」は女性の料理負担を増やしたのか)を書いたのですが、そのときはやっぱり、罪悪感があるから手をかけたいという利用者の声がありました。そう考えると、食事作りへの認識も変わっているのですね。

前島:一歩一歩ですよね。便利なものが当たり前になって、それまではちょっと使うのに罪悪感があったものが使われるようになって、さらにその先が当たり前になっていく。階段を上っていくように文化とか認識が変化するのだと感じます。

Antwayの前島氏と阿古氏。初対面にもかかわらず、「家事談義」は弾み、話は女性の家事負担から、家事の可視化、男性には家事や育児を学ぶ場所がないなど幅広い話題を語り合った(撮影:尾形 文繁)

女性は「背負いすぎている」傾向にある

――前島さんは30代と聞いていますが、ご自身の世代は食事作りなど、家事に対してどのような認識をもっていると感じますか。

幼少期、父親がうつ病になり、4人の子どもを抱える母親が家事で苦労をしているのを見て、自身も家事を手伝った経験から家事の大変さを実感したと語る前島氏(撮影:尾形 文繁)

前島:20~30代はかなり変化していると思います。家事については正直世代間格差がありますね。ただ、旧世代の方は環境的にそうならざるを得なかった面もあると思います。便利で安心できる外注サービスやネットがなかったし、そもそも働く女性も少なく、社会的に役割分担を強いられている状況にありました。

一方、今の世代は欧米の思想が入ってきたこともあるし、便利なサービスが色々あって、むしろそれを使わないほうが変じゃない? みたいになりつつある。思想と物理的な社会のレイヤーから変わってくることで、20~30代はかなり変化しているなという感覚はありますね。

阿古:ただ、それでも女性側は背負いすぎている傾向があります。以前、料理がしんどい人たちについて取材をしたとき(「料理がしんどい」と感じる人が増えつつある事情)、40~50代が多かったのですが、特に50代ぐらいの方は料理は自分がやるべきで、しかも、それを丁寧に、一汁三菜で、日替わりで作らなければいけないという意識が強い。それを何十年もやってきて、時に家族からディスられ……。主婦の方でもだいぶ疲れていらっしゃいます。

前島:感謝もされずに、「またこれ?」みたいな。

さまざまな取材を通じて特に女性たちが抱える家事へのコンプレックスや苦悩に向き合ってきた阿古氏(撮影:尾形 文繁)

阿古:そんな環境の中で料理をしてこられていて、「本当はもっとちゃんとできなきゃいけないんですけど」とか、「SNS見ると、もう皆さんすごいのに私は……」とかおっしゃる。なので、「何作ってるんですか」と聞くと、わりと手の込んだものを作っているんですよね。

前島:なるほど。家父長制×SNSって掛け合わせるとかなり邪悪なことになるという。自分はその責務をやらないといけないのに、そこにおける最高の人をインスタとかで見ちゃうと、劣等感を抱いてしまうということですね。

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