日本人が「一汁三菜」に強いこだわりを持つ事情 令和になっても家事に残る「昭和型の価値観」

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これは当社のミッションにも通じるのですが、子どもへの愛情はある種ポートフォリオで感じてほしいな、と。食事はその1つではあるけれど、ほかにその要素はいくらでもある。一緒にトランプやってもいいし、話をしてもいいし、ハグをしてもいいし。食事はそうした愛情表現の中の一部だという扱いにならないのかな、と思いますね。

阿古:十数年前、リーマンショックとか、そのちょっとあとくらいに「料理は愛情で、食卓は家族の絆」みたいなアピールがものすごく強かった時期があるですね。もちろんそれは正しい考え方の1つではあるけれど、その正しさだけが非常に強調されてしまっていた。

この時期は、総菜がどんどん普及して、若い世代の料理技術が下がって、和食離れが進み、醤油も消費量が減って、米は当然減り続けていると言う中で、日本の食文化が壊れてしまうかもしれないという危機感がとても強かったのです。

そういう中で、料理は愛情だという正しさが強調されすぎてしまったがゆえに、それを信じている人たちのほうが「私はまだまだ物足りない」という強迫観念を感じて、正しく一汁三菜を、となったわけです。

「義務としての食文化」は残るのか

――真面目な人ほどそう感じてしまった。

阿古:そう、真面目な人ほど余計に、かたくなに正しく生きようとしてしまう。

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前島:ただ、義務としての食文化って残るのかなっていう、疑問があります。そもそも文化って自然と社会に溶け込んで、そこから自然発生的に生まれるものではないかと思います。そうした中で、料理が残さなきゃいけない義務になった瞬間に、逆に残りづらくなるんじゃないか。一部の、ある種の原理主義的な人によってのみ残される、というか、主義にしてしまうことでしか残らないのではないか、と。

楽しく料理をやろう、そのためには、やっぱり一汁三菜毎日は厳しいので、土日だけで普段は総菜でいいよねと、したほうが食文化は自然に残るんじゃないかと思ったりはします。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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前島 恵 Antway社長兼CEO

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まえじま けい / Kei Maejima

2015年3月 早稲田大学人間科学部卒業後、東京大学大学院修了(学際情報学修士)。
研究者を目指して大学院に進学したが、社会問題を高速かつ広範に解決できるビジネスの力に魅了され、キャリアチェンジ。2015年4月、リクルートホールディングス(現:リクルート)に入社。新規サービスのFE/BEエンジニアを経て、保険系新規サービスの開発統括、美容系予約サービスの開発統括に従事。2018年4月よりビジネスサイドに異動し、新規事業立ち上げに従事。2018年12月 リクルートを退社し、Antwayを創業。

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