言語の覇権争い「中国とアメリカ」の戦略的な差 中国語の影響が英語を凌駕する時代はくるのか

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日本に来たばかりの人に、「日本語を完璧にしゃべれ」なんて押し付けるのは、そもそも寛容ではないですしね。そういう閉鎖的な雰囲気を残し続けて入れば、せっかくのいい人材が台湾や韓国に取られてしまうという話にもなりかねません。そういう意味でも、日本国内での外国語習得の熱は冷ますべきではないと思いますね。

英語と中国語の強さと弱さはどこにある?

上乃:中国語の重要性が増しているのはわかります。ただし英語の場合は、英語による音楽や映画などのポップカルチャーが人気の下支えをしているので、やはり強いと言えませんか?

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五味:確かに、ポップカルチャーという点では、中国語は弱いでしょうね。中国という国の政治思想が足かせになって、それを使って表現活動するにはどうしても限界がある。

ポップカルチャーという尺度では、中国語は弱さを抱えざるを得ません。ただし、実利ということになると、がぜん強みを発揮します。

このところ、中近東やアフリカでは中国語が非常に人気になっています。なぜかというと、中国語を勉強すると、現地の中国系企業で働けたり、通訳として雇ってもらえたりするからなんです。もしくは、中国政府から奨学金をもらい、中国に留学することも夢ではない。

アフリカや中近東では、中国語を習得さえすれば、職にあぶれることなく生きていけるという実利的なメリットが生まれてきている。中国政府はそうした明確なメリットと結び付けて、アフリカや中近東に中国語を広めようとしているんです。中国語を学んでもらうことでそれらの地域の人たちを中国のファンにし、取り込んでいくということを戦略的にやっています。

かたや、そういう面ではアメリカは弱い。自分たちにはポップカルチャーがあるから、努力をしなくても自分たちの言葉は世界に広まっていくだろうと考えているのかもしれません。

上乃 久子 ニューヨークタイムズ取材記者

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うえの ひさこ / Hisako Ueno

1971年岡山県生まれ。1994年に四国学院大学文学部英文科卒業後、同大学の事務助手として勤務。東京都内のバイリンガル雑誌社、翻訳会社、ロサンゼルスタイムズ東京支局、国際協力機構(JICA)を経て、現在、ニューヨークタイムズ東京支局に取材記者として活躍。サイマル・アカデミー同時通訳科修了。著書に『純ジャパニーズの迷わない英語勉強法』(小学館)。

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