視力失った彼が「クライミング」で掴んだ生き様 ビジネスマンにも通じる「行動力」にある原点

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「だからといって“もういい年なんだから”という言葉を出すと、人生を楽しむとか、豊かにするというようなことがどんどん削られていくような気がするんです。僕は岩を登るとき、足が地上から離れた瞬間、頭の中は登ること以外、一切考えてない。いわゆるビジネスの世界で言うところのマインドフルネスですよね。登って足が地上から離れた瞬間に、人はもう上に行こうとしか考えなくなるから。ほかの一切を捨てて、その瞬間にストレスフリーな状態になるんです」

健常者が思い浮かべるクライミング像といえば、クライマーがひとりで山に向き合い、黙々と登り続けていく姿だと思うが、パラクライミングは、サイト(視覚)ガイドとクライマーがペアとなって実施。

サイトガイドが「右手、1時半、遠め。右、右、右!」など、登るために必要な「方向」「距離」「ホールドの形」などの情報を伝え、クライマーがその情報を頼りに登ることで成立する。遠くから聞こえる相棒の声を自分の目のように頼り、8の字結びのロープでつながり、命をゆだねて岩を登る。むしろチーム競技ともいうべきものだと言える。

2人はフォルクスワーゲンの白いキャンパーバンに乗ってアメリカの旅に向かう(C) Life Is Climbing 製作委員会

誰であっても分け隔てなく接する

「自分の中では、この映画の主人公はサイトガイドの鈴木直也だと思うんです。この人は相手が障害があろうが、外国人だろうが子どもだろうが、誰であっても、分け隔てなく同じように付き合い、人生を楽しんでいる。そしてそれがまわりの人に笑顔をもたらすわけですが、それこそ人が本来あるべき姿じゃないかと思うんです。そういう意味で映画をご覧になる方が自分と重ねられるのって、ナオヤの姿だと思うんですよね」

サイトガイドのナオヤ(左)とコバ(右) (C) Life Is Climbing 製作委員会

本作の監督を務めたのは、テレビ番組「ザ・ノンフィクション」(フジテレビ系)で小林を密着取材した中原想吉。もともとはアメリカでのクライミングを短い映像でまとめ、それを世界に向けて配信できないかというのがはじまりだった。

そこでコバたちが中原監督に撮影を依頼したところ、中原監督から「せっかくなら映画にしませんか?」と逆に提案されたことで映画の企画がスタートした。

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