中野:健康経営というのは、具体的にどのような内容なのですか。
渋澤:従業員の健康管理に配慮することを、重要な経営戦略の一環としてとらえて、実践している企業のことです。
業績が順調な企業は、人的投資に手厚い
藤野:人間ドックとかがん検診とか、あるいはうつ病対策などにきちっとおカネを掛けているかどうか。それは経営側からすれば、従業員に対する一種の投資です。
そこにおカネを掛けることで、従業員の活力や生産性を向上させれば、最終的に企業の活力を高め、企業価値を高める可能性があるという考え方です。一般的に儲かっている企業は、それこそブラック企業ではないけれども、売上げを伸ばすうんぬんの前に、従業員から搾取しようとすると思われがちなのですが、実は、それとまったく逆のケースが、少なくとも健康経営を目指している企業には見られるのです。
つまり、社員に対して正当なコストを払う企業は、非常にいい経営スタンスを持っているし、それに支えられて業績も順調に伸びるということです。これは、言い方を変えると、「人的投資に手厚い企業」ということになります。そして、人的投資には給料も含まれると考えるべきでしょう。
渋澤:ただ、従業員の健康管理をコストではなく投資としてとらえるのであれば、単年度で費用計上するのではなく、複数年度で減価償却していくように、会計上のルールの議論を深める必要がありそうです。費用としては単年度で発生しますが、投資の成果は1年で出るようなものではないからです。実際に会計上のルールを見直すとなると、ハードルは高くなりそうですが、そのくらいのインセンティブを企業に与えたほうがいいと思います。
中野:確かに従業員を大切にするのはわかります。特に大企業になるほど、その責務は非常に重くなるでしょう。ただ、ベンチャー企業の場合、そこはなかなか難しいところがあります。ベンチャー企業って、社長も従業員も同じベクトルを持ち、ある程度自己を犠牲にしても、企業の成長に賭けるという面があるじゃないですか。
そういう企業は、利益を社員に配分する以前に、より業容を拡大させるべく投資に資金を回しますから、往々にして従業員への報酬は後回しになりがちです。だから、労働分配率は決して一律に論じられるようなものではなく、企業が今、どのステージに立っているのかという点も考慮してもらいたいですね。
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