「子どもの声は騒音ではない」法制化を喜べない訳 「公園での遊び声」「道路族」に悩まされる人も

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従来は、この「何人も」の中には子どもも含まれるという解釈ができたため、2015年3月にこの条例の改正を行い、子どもの声や保育園等で発生する音(音響機器や遊具の音など)を条例の数値規制から除外することにしたものです。その後は、受忍限度で判断されることになります。

このように、これらの改正は子どもの声を“騒音”から除外するというよりも、 “公害騒音”から除外するという趣旨であることには注意が必要です。

いつから子どもの声は“騒音”とされるようになったのか

子どもの声が“騒音問題”として最初にマスコミに登場するのは、朝日新聞が2000年の年初から始めた連載記事「少子の新世紀」の中の滑り台の記事でした。

「子どもの遊び声がうるさい」として滑り台の設置場所が転々とし、最終的に交通騒音のうるさい道路端の公園に落ち着いたというもので、その後のコラムなどでは「さまよう滑り台」と呼ばれました。ここでも、子どもの声が少子化問題とリンクして扱われていたことは興味深い事実です。

その後、子どもの声や学校への騒音苦情が多発するようになり、2006年には熊本市の小学校体育館から発生する子どもの声やボール音がうるさいとして損害賠償を求める訴訟が提起されました(後に和解成立)。

他にもさまざまな訴訟が提起され、中でも特に社会の耳目を集めた子どもの遊び声の騒音問題は、東京都西東京市のいこいの森公園での騒音差し止め請求事件でした。

市町村合併で発足した西東京市が、合併記念事業として研究施設の跡地に新たな市民公園を建設しましたが、そこには水が間欠的に吹き出す噴水の遊び場が設置され、子どもたちの遊び声や歓声が響くようになりました。

公園脇に住居を構える女性が子どもの声がうるさいと市側に対策を求めましたが、市は子どもの声は騒音ではないとこれに応じなかったため、女性が東京地裁八王子支部に騒音の差し止めの申し立てを行い、子どもの声が騒音かどうかの司法の判断が下されることになったのです。

結果は女性の申し立てを全面的に認め、噴水の停止が決定しました。この場合は保全事件のため決定文の内容は非公開となっていますが、他の訴訟の証拠資料として提出された記録によれば、その決定文の中で裁判官は次のように述べています。

〈市は子どもの声を騒音と感じる感覚がおかしいというが、一定の音量を超える子どもの声が騒音であることは自明であり、市の主張に添えば、上映中の映画館で騒ぐ子どもも制止できない事になる〉

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