実は筆者も、日頃SNS(ソーシャルネットワークサービス)での反応が素早いメドベージェフ前大統領だけでなく、ウォロジン下院議長も事件直後にゼレンスキー政権の打倒を求める発言をしたことに強い違和感を覚えた1人だ。事前にクレムリンが最高幹部に発言を「振り付け」した匂いを感じた。
クレムリンが「偽旗作戦」に出た理由としてISWは、戦勝記念日を前にロシア国民に対し、戦争が国家存立のかかった事態に至ったことを強調し、より広範な戦争動員に一層協力するよう呼び掛ける狙いだとの見方を示した。
筆者も「偽旗作戦」の可能性は相当あると考える。2023年4月以降、プーチン氏は遅々として進まない東部の激戦地バフムトの制圧を戦勝記念日までに実現するよう軍に厳命していた。実際にはそんなに大きくない戦果であるバフムト制圧を記念日演説で、重要な戦勝として誇示したいとの思惑があったとみられる。しかし記念日を前に、この思惑が外れたことは明白だった。
そこで、ウクライナ軍の大規模反攻作戦開始を前に、プーチン氏としては逆に、クレムリンが攻撃を受けるというところまで戦局が悪化したことを強調することで、政権への結集を訴える危機強調戦略に転換した可能性はある。
そうだとすると、クレムリンへの攻撃を阻止できなかったという屈辱まみれの自作自演までしないと、国民の国防意識を鼓舞できないプーチン政権の窮状が曝け出されたということになる。
ウクライナは攻撃を否定するが…
しかし一方で、ドローン事件が実際にウクライナによる攻撃だった可能性を捨てきれないのも事実だ。
事件後、ゼレンスキー大統領は確かに「ウクライナ軍は国内で戦っており、攻撃していない」と全面否定した。しかし、侵攻後、これまでにウクライナ側が公式には関与を否定しながら、実際は実行していた事件が複数あるのも事実だ。代表的なのが2022年10月のクリミア大橋での爆破事件だ。
ゼレンスキー氏は当初「われわれは断じて命じていない」と関与を否定した。しかし、その後、ウクライナ高官は爆破を自国情報機関が実行したことを非公式に認めている。つまり、大統領の否定発言は政治的なもので、必ずしも事実を話していない場合があるということだ。
仮にウクライナ側の攻撃だった場合、その狙いは明白だ。ウクライナ軍としては、政権の最中枢であるクレムリンを攻撃することで、反攻作戦開始に勢いを付ける狙いがあるとみられる。
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