独立系メディアの様々な検証報道によると、クレムリンに近い市中心部でドローンの飛行を目撃した市民はその直後に爆発音も聞いたため、警察に通報したという。しかし、赤の広場周辺の道路で当局による通行止めなど特別な態勢が敷かれた様子はなかったと証言している。
赤の広場は、5月9日に開かれる対ドイツ戦勝記念日のモスクワでの会場でプーチン大統領の演説も予定されている。しかし、4月下旬にクレムリンと赤の広場をドローンで上空からゆっくりと撮影したとする動画がネットで一時広まり、大騒ぎになっていた。
筆者自身も映像を見て驚いたが、ウクライナが攻撃能力を誇示するため、密かに撮影したとの見方が一気に広がった。その後、この動画はフェイクと判明したが、広場は4月27日から5月10日まで一般には閉鎖された。
このため、広場を閉鎖しても記念日にウクライナ側が広場に上空からドローン攻撃をしてくるとの強い懸念がクレムリン側にあるのは間違いない。今回の事件当夜もクレムリンも含め当然、防空態勢を強化していたはずだ。
防空システムは機能していたのか
モスクワでは2022年末、ロシア領内でウクライナによるドローン攻撃が相次いだため防空態勢が強化されていた。国防省など赤の広場にも近い政府庁舎の屋上には、ロシア軍の主力近距離防空システム「パーンツィリ」が設置されていたといわれる。
それなのに、ロシア軍は2機のドローンがクレムリンに侵入するのをやすやすと許したのか。常識的には考えられない事態だ。上記したクレムリンの発表文は「レーダー戦装備」で無力化したとしているが、2機は標的だったとみられる旧元老院ビルの象徴でもあるアーチ型屋根を正確にヒットしている。とても無力化されたとは思えない命中精度だった。
このようにモヤモヤ感が濃い今回の事件を巡り、クレムリンによる自作自演の「偽旗作戦」の可能性が高いとの判断を示したのが、侵攻に関して毎日分析レポートを公表しているアメリカの「戦争研究所(ISW)」だ。
クレムリンの発表から数時間後に出たレポートの中でISWは、「偽旗作戦」を証明する具体的な証拠を示したわけではない。しかし、首都の防空面を支えるパーンツィリをドローン2機がかいくぐることができるとは考えられないと指摘した。
加えてISWは5月3日夜、ロシアの政権最高幹部がゼレンスキー政権への強硬な報復を相次いで主張したことも不自然と指摘した。今回のような屈辱的な突発的事件があった場合、ロシア政府内からは怒りのあまり「統制の取れていない」発言が相次ぐのが通例なのに、今回は首尾一貫した発言が相次いだからだ。
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