クレムリン・ドローン攻撃をめぐるこれだけの謎 ロシアの自作自演? ウクライナの攻撃? あるいは別の…

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反攻作戦の開始を前に、4月末以降ウクライナ軍はロシア領各地でも鉄道や石油貯蔵施設などへの攻撃を活発化させている。前線で攻勢を開始する前に、まず後方地域でロシア軍の軍事的体力を奪う戦略だ。

筆者としては、仮にウクライナの攻撃だった場合、ゼレンスキー氏がこれを否定する必要性は道義的にもまったくないと考える。理不尽な侵攻を受けた国家指導者として、堂々と発表すればいいと思う。しかし反転攻勢を前に、軍事目標でないクレムリン攻撃を巡り、アメリカとの間で摩擦を招きたくなかったという思惑があるのではないか。

さらに、ロシアの自作自演でもなく、ウクライナの攻撃でもない場合、3つ目の可能性もくすぶる。ロシア国内でウクライナ側に立ってパルチザン的攻撃を続けているロシア人義勇軍組織が関与した可能性だ。

ウクライナとアメリカの微妙な関係

一方で、アメリカの対応は慎重だ。アメリカ国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は5月4日、「確実な証拠は得られてはいない」と述べ、アメリカ政府として事件の真相について結論を出していないことを強調した。

ウクライナを軍事的に支える同志国であるアメリカとしては、ウクライナの側に立って、ゼレンスキー大統領発言を支持するのが通常のことと思われる。しかし、やはり上記したように、クリミア大橋での爆発事件の経緯もあり、バイデン政権としては事態を見守る構えなのだろう。

しかし、それ以上に別の思惑もあるだろう。ワシントンにとって、今回のドローン事件はどちらにしても戦略的に大きな影響はない。反攻作戦の成否の方がはるかに重要だ、ということだ。ドローン事件については真相究明を急がず、このまま放置する可能性も相当あると筆者は考える。

いずれにしても、今回改めてはっきりしたことがある。軍事作戦について、必ずしも情報をすべて共有していないアメリカとウクライナの間の微妙な同志国関係だ。ここから透けて見えてくるのは、全領土奪還という自らの軍事目標達成に向け、アメリカに手の内をすべてさらすことをせず、冷徹に作戦を展開するウクライナ軍の強かさだ。

吉田 成之 新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長

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よしだ しげゆき / Shigeyuki Yoshida

1953年、東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。1986年から1年間、サンクトペテルブルク大学に留学。1988~92年まで共同通信モスクワ支局。その後ワシントン支局を経て、1998年から2002年までモスクワ支局長。外信部長、共同通信常務理事などを経て現職。最初のモスクワ勤務でソ連崩壊に立ち会う。ワシントンでは米朝の核交渉を取材。2回目のモスクワではプーチン大統領誕生を取材。この間、「ソ連が計画経済制度を停止」「戦略核削減交渉(START)で米ソが基本合意」「ソ連が大統領制導入へ」「米が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退方針をロシアに表明」などの国際的スクープを書いた。

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