3つの「世界同時多発『ヤバい』」が起きている 実はアメリカよりも日本のほうがもっと深刻だ

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競馬である。

3歳馬のチャンピオンを決める「ダービー」は、競馬界で最も重要なレースとされるが、「世界の3大ダービー」とは、元祖英国の「エプソムダービ―」、いまや世界一の競馬大国である日本の「東京優駿」、そしてアメリカのチャーチルダウンズ競馬場で行われる「ケンタッキーダービー」と言っていい。

この週末は、その3つのうちの1つであるケンタッキーダービー(ダート10ハロン=2000メートル)が6日(日本時間は7日の7時57分)に行われる(ちなみに東京優駿は5月28日、エプソムダービーは6月4日開催)。

かつて、日本人所有馬ではフサイチペガサスが2000年に勝利したことがある(21年ぶりの1番人気馬の勝利)。

当時、アメリカ在住だった私も生で(と言ってもテレビの生放送だが)見ることができたが、さすがアメリカ、騎手よりも調教師よりも競走馬オーナーがいちばんの扱いで勝利インタビューを受けていたのが印象的だった。これは「アジア人初」ということで競争前から注目され、しかも1番人気だったため、ある種アンチ的な報道のされ方でもあった。

だが、このダービー勝利後、種牡馬の権利が当時としては史上最高額(約84億円)で売却され、非常に評価が高い馬となった。その割には、その後の種牡馬としての成績はパッとしない。

こうしたケースはむしろ例外で、ケンタッキーダービー馬は、ディープインパクトの父であるサンデーサイレンスをはじめ、多くの馬が成功しており、「種牡馬能力検定レース」として、世界のダービーの中でもダントツの信頼性がある。

これはなぜだろうか。一見、アメリカのダート競馬のほとんどは小回りコースで、観戦する分にはなんだかドッグレースみたいに見え、日本や欧州からすればチャチな箱でのレースのようだ。

だが、ダート競馬というのは芝のコースに比べて安定して信頼のおけるレース結果が出るし、スタートから飛ばしまくって、サバイバルレースになるアメリカスタイルは、つねにほとんどの馬が力を出し切るので、価値が高いのだ。

ケンタッキーダービーはマンダリンヒーローに期待

さて、このレースに、今年はなんと日本調教馬が3頭も遠征している。そのうち、補欠だった日本のマンダリンヒーロー(馬主は新井浩明氏)が出走できることになったのだが、残念ながらコンティノアール(同ライオンレースホース)は回避となり、前哨戦の1つであるUAEダービー(G2)を勝ったデルマソトガケ(同浅沼廣幸氏)と、日本からは2頭となった。

個人的には23年ぶりに興奮している。なんと言っても、彼(マンダリンヒーロー)は、都道府県別の組織が主体となっている「地方競馬」の大井競馬場の所属であり、日本の競馬で主力を占めるJRA(日本中央競馬会)の競馬を一度も走ったことがないのである。

マンダリンヒーローは、JRAの重賞などには目もくれず、ひたすらアメリカを目指し、西海岸では最もレベルの高い前哨戦のサンタアニタダービー(ダート1800メートル、G1)で、大物の呼び声高く断然人気となったプラムティカルムーブ(Practical Move)の惜しい2着だったのだ。プラムティカルムーブは、今回のケンタッキーダービーでも有力馬の1頭だから、がぜん日本調教馬戴冠の期待が膨らむ。

2着になったとはいえ、西海岸から東海岸に移動し、また補欠の資格で出走できるかどうかもわからないまま、チャーチルダウンズで待機していた、この気概に頭が下がる。「費用はどうしているのだろう」「どういう経緯でケンタッキーダービーに目標を定めたのだろう」と好奇心がそそられる。全力で応援したい。

今後はJRAやNAR(地方競馬全国協会)などという区別がまったくなくなることを、繰り返しになるが強く望む。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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