植田氏はハト派、つまり、無理に金融緩和をやめないという考え方であることはわかっていた。しかし、彼は誠実さのあまり、「これまでの金融政策は妥当」、つまり「いわゆるイールドカーブコントロール(YCC)も副作用がある政策であることは事実だが、現在の状況からいってYCCは適切だ」と言ってしまったのである。
一連の発言に、「最短で行けば、初回の金融政策決定会合(4月27~28日)からYCCの変更まであるかもしれない」と意気込んでいた海外勢は拍子抜けし、ドル円相場は急落、円安に振れた。
私も、植田氏は穏当かつ慎重であるから、いきなり政策変更はしないと思ったし、今後についてもつねに市場を出し抜くようなことはしないと思われた。それゆえ、「YCCの変更が必要かどうかを、政策決定会合メンバーや日本銀行スタッフなどと十分検討してから行う」というスタンスを取ると思っていた。
政策変更は副作用が顕在化してからでは遅すぎる
「これまでの金融緩和政策の効果などの検討を1年から1年半で行う」と表明したではないか、という反論もあるだろう。こうした発言は、見直しを検討するという意味では予想どおりなのだが、それでは次回のYCCの変更にはならない。
しかも、これから先の検討は「目先の金融政策の変更の是非のためではなく、中長期的な政策検討のための材料」ということだった。
確かに、逆に言えば、この検討とは無関係にYCCの変更はありうるわけだ。しかし、植田氏の説明から行けば「現状YCCは妥当、しかし副作用が存在し、現在は許容範囲だが、それを超えれば変更する」ということだった。
それでは間に合わないのだ。YCCの性格からいって、副作用が明らかになったときには、市場から総攻撃を受け、政策変更が難しくなっているはずだ。しかし、それでも変更しないといけないから、金融市場に大きなダメージと混乱をもたらすことを甘受して、変更することになる。
要は、就任するや否や、「私は必ず失敗する、失敗してYCCを放棄することになる」と宣言し、それがわかっていながら、それを回避しない、と自らの手を縛ってしまったのだ。なんということだ。
しかし、これだけならYCC修正の混乱だけの問題で済む。絶望的なのは、植田氏まで「なんとしても物価上昇率2%を安定的に達成するまで、金融緩和を続けたい」と宣言してしまったのだ。
さらに、賃金上昇を伴う好循環、つまり、賃金上昇率がインフレ率を上回り、実質賃金が安定的に上昇するような状況になるまで、金融緩和を続ける、と言ってしまったのだ。
もう終わりだ。
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