治療だが、扁桃炎や扁桃周囲炎では抗菌薬をまずは使う。扁桃周囲膿瘍では針を刺したり、切開したりして膿を出す必要がある。櫻井さんによると、「痛みが強く食事ができない場合や発熱など全身状態が強い場合は、入院して点滴治療を受けながら、治療することになる」とのこと。繰り返すが、「たかが喉の痛み」とあなどれないのだ。
また、扁桃周囲膿瘍が進行すると喉の下に病巣が広がり、首に膿が溜まって腫れることもある。まれではあるが、さらにその下にある左右の肺の間の「縦隔(じゅうかく)」という空洞部分に感染が広がることも。
そうなると、呼吸困難を起こしたり、細菌が全身にまわって敗血症を発症したりする危険もある。敗血症とは心臓や肺などさまざまな臓器の機能不全が起こる状態で、水分や電解質などの輸液を投与しても血圧の低下が改善しないものを敗血症性ショックと呼ぶ。
櫻井さんは言う。
「首や縦隔に膿が溜まった場合は外側からメスを入れ、膿を出し洗浄して専用のチューブ(ドレーン)を挿入して治療します。ただし、若い人がここまで重症化することはまれで、高齢者が多いですね。高齢者は高熱が出にくく、知覚が全般的に低下していることもあって、喉の痛みも感じにくい。このため、病気の発見が遅れやすいということも一因だと思います」
ところで、扁桃炎や扁桃周囲膿瘍の再発を繰り返す人が一部にいる。
「扁桃炎や扁桃周囲膿瘍を繰り返す場合は、扁桃を摘出する手術が必要になることもあります。扁桃は免疫組織ではありますが、摘出しても免疫力低下などの問題はないとされています。とはいえ、このようにならないためにも、初期の扁桃炎の段階できちんと治療をしましょう。発症したらしっかり休息することも大事です」(櫻井さん)
10~20代の発症が多い「キス病」
次は伝染性単核球症という病気だ。こちらも扁桃炎の一種だが、細菌ではなく、ヘルペスウイルスの1つであるEBウイルスが原因で起こる。
「キス病(kissing disease)」と呼ばれているのは、主に唾液によって感染する、つまりキスがきっかけになる病気だからだ。したがって、この病気は思春期から比較的若い10~20代に発症しやすい。
実はこのEBウイルスは、成人までにほとんどの人が感染する身近なウイルス。乳幼児期のときに家族からのキスなどで感染してもほとんどは無症状だが、未感染の人が思春期以降、初めて感染すると、重い症状を引き起こす伝染性単核球症になりやすい。
EBウイルスの一部は感染後、喉や血液中で潜伏し、休眠状態に入る。そして、風邪や体調不良をきっかけにときどき目覚めて再活性化し、感染者の唾液の中に出てくる。この唾液を介して未感染の人が感染するわけだ。
自分が感染者かどうかは抗体を調べればわかるものの、実際に検査を受けている人は少ない。つまり、誰もが感染する可能性があり、ウイルス保有者として人にうつす可能性もあるわけだ。それだけに、発症が疑われたら、早めに医療機関を受診することが望まれる。
「高熱と喉の痛みから始まり、首のリンパ節が腫れるのが特徴。首の後ろを押さえたときに、ぽこっと腫れていたら要注意です。血液検査をすると異型リンパ球といって、通常とは形の異なるリンパ球が増えています」(櫻井さん)
異型リンパ球は病原体などの異物に反応することでできるが、伝染性単核球症の場合、最も顕著に表れるという。また、肝機能の悪化が見られることもある。
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