妻の認知症に気づけなかった刑事の深い後悔 家事をテキパキとこなしていた妻に起きた異変

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お風呂から上がった佐久間さんは、寝る前にニュースを見ようと居間に向かったが、玄関を通りかかったとき、ふと違和感を感じた。何かおかしい。刑事の勘とでも言うのだろうか。

玄関をしばし眺めると、そこにあるべきはずの革靴が消えていることに気づいた。いつもなら革靴に新聞紙が詰め込まれているのに、今夜は玄関のどこを探しても見当たらなかった。ドライヤーは洗面所に置かれたままであったし、一体革靴をどうやって乾かしているのだろう。

結婚してからというもの、すべての家事をテキパキとこなしていた聡美さんに、何か異変が起きているのではないだろうか、佐久間さんはこのとき初めて、そんなえも言われぬ不安を抱いたのだった。

食器乾燥機の中に革靴

まだ寝ずに居間にいた聡美さんに、「ねえ、革靴はどこにあるんだい?」と、佐久間さんはなるべく自分の心の動揺を悟られないように、優しく話しかけた。「あら、心配しなくても、大丈夫ですよ。あそこで乾かしていますからね」と、聡美さんが指さした方向は、どういうわけか台所だった。

そして、そちらに視線を向けた佐久間さんは、目に映った光景に言葉を失ってしまった。なぜなら食器乾燥機の中に、革靴が放り込まれていたからだ。

「川畑さん、聡美はまだ60歳を過ぎたばかりなんです。やはり若年性認知症なんでしょうか」と、佐久間さんは先程起きた出来事の顚末を一通り話し終えた。夜遅くに泣きそうな声で連絡してきたので、私はびっくりしてしまった。

佐久間さんは「俺が、仕事に明け暮れて家にいなかったから、それがストレスで認知症になってしまったのでしょうか。愚痴を言わなかったから、てっきり大丈夫だと思っていたけど、言わなかったんじゃなくて、言いたくても言えなかったのでしょうか?」と、頭に思い浮かんだ言葉を矢継ぎ早にぶつけてきた。

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