妻の認知症に気づけなかった刑事の深い後悔 家事をテキパキとこなしていた妻に起きた異変

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「聡美が認知症になったのは、全部俺のせいだ。どうして、もっと話を聞かなかったんだろう」と、電話越しでもひどく落ち込んでいる様子が伝わってきた。

「もちろん、ストレスが認知症を進める一因になることはありますが、ただそれだけで認知症になるわけではありません。今回のケースも、奥さんは手段こそ間違えてしまいましたが、乾かすということは理解できているんです。おそらく奥さんは認知症の兆候が出ているかと思いますが、今は一生懸命頑張っていらっしゃるんですよ。佐久間さんが、そんな奥さんに対して取るべき行動は、たった一つです」と、その後に続いた私の言葉を聞いて、電話の向こうで佐久間さんがハッとしたのがわかった。

電話を切った佐久間さんはすぐに寝室に向かい、「聡美、靴を乾かしてくれて、ありがとうな」と、今にも眠りそうな聡美さんにお礼の言葉を伝えた。

「なんですか? 改まって。お安いご用ですよ」と、にっこり微笑む聡美さんの顔を見て、佐久間さんは涙がこぼれ落ちそうになるのを必死に堪えた。そこから聡美さんの症状は徐々に進行した。

グループホームへ入れる決心

しばらくして警察を定年退職した佐久間さんは、つきっきりで聡美さんの面倒をみた。何をするにも、どこへ行くのも一緒。それは、まるでこれまでの結婚生活で、聡美さんを放ったらかしにしていたことに対する贖罪であるかのようだった。

認知症という未知の世界へ、聡美さんを一人で飛び出させてしまったことをとても後悔した佐久間さんは、その穴埋めをするために懸命に介護した。

けれど、やはり限界はくる。洋服を着てくれない、お風呂に入ってくれない、もう佐久間さん一人の力ではどうにもならない状況にまでなってしまった。

そして佐久間さんは、ついに聡美さんをグループホームへ入れることを決めた。

次ページグループホームでの聡美さんの様子は…
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