妻の認知症に気づけなかった刑事の深い後悔 家事をテキパキとこなしていた妻に起きた異変
数カ月後、私は佐久間さんを訪ねた。
「聡美がね、怒るんですよ。どうして私を監視するの、どうして私の自由にさせてくれないのって。あんなに優しかった聡美が、俺がそばにいるとずっと怒っているんです。俺は、本当はグループホームになんて入れたくなかった。ただ笑っていてほしいだけだった。俺はもう聡美に嫌われてしまったんでしょうか」と、佐久間さんはこの数ヶ月で起きたことを話してくれた。
グループホームでの聡美さんの様子は、私の耳にも入っていた。
「佐久間さん、グループホームでの奥さんの口癖をご存知ですか?」と尋ねると、佐久間さんは首を横に振った。
「お父さんがいない、私を置いてどこに行ったんだろう? と言いながら、奥さんは佐久間さんのことをずっと探しているんです。だからね、奥さんが佐久間さんのことを嫌うなんてことはないですよ」と伝えると、佐久間さんはその場で泣き崩れてしまった。
自分を責め続けていた立場からの転換
その後、佐久間さんは、福岡県の認知症家族の会の役員になった。
妻の認知症に気づけなかった自分の不甲斐なさを責め続けたが、それでは何も変わらないということを、佐久間さんはとっくに理解していた。
もう誰にも自分のような後悔をしてほしくない、自分の体験を無駄にはしたくない、そのような思いで、自分たち夫婦のことを講演会で話すようになった。
当事者としてとことん向き合ってきたからこそ、自分には伝える役目があるのだという自負を持った佐久間さん。自分を責め続けていた立場から、今度は同じ悩みを持つ方を励ます側へ180度変わったのだ。
聡美さんが若年性認知症を発症してしまったことは、二人にとっては確かに辛く悲しい出来事である。けれど、そのことが佐久間さんに、第二の人生を切り拓いてくれたこともまた、紛れもない事実なのである。
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