「大手は公正な競争を」新電力社長の切なる願い 中野・SBパワー社長が語る「大手に勝てぬ事情」

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――内部統制強化のためにどういったことを望みますか。

内部で継続的なモニタリングとともに、社外取締役などによる第三者的なチェックを定期的に入れていく必要がある。

――今回の不祥事を踏まえ、大手電力は送配電部門と小売り部門の情報システムの物理的な分離にも取り組むと発表しました。このような情報の遮断は、10年前に電力システム改革に着手した時にやっておくべきではなかったのでしょうか。

今にして思えばそうだったと思う。しかし、モニターする立場の経産省も、われわれのような第三者も、強く求めてきたわけでなかったことも事実だ。

中野明彦(なかの・あきひこ)/ SBパワー社長兼CEO。東京電力で経営企画に長く携わった後、2012年ソフトバンク入社。2019年から同社エナジー事業推進本部本部長、SBパワー代表取締役兼CEO。経済産業省の電力・ガス取引監視等委員会・制度設計専門会合オブザーバーも務める(撮影:尾形文繁)

――有識者の間では、部門間の人事ローテーションを制限すべきだとか、違反に対して罰則を設けるべきだといった意見もあります。現在、電気事業法では罰則はなきに等しいのが実情です。

いずれの指摘もそのとおりだと思う。まったく行き来できなくするといったやり方はともかくとして、人事ローテーションでは一定の制限は必要だ。違反行為がきわめて悪質な場合には、罰則を科すこともありうる。罰則の程度をどこまで強めるかについては、きちんとした議論が必要だ。

大手と新電力の「内外無差別」徹底を

――発電部門や小売り部門と送配電部門との分離について、資本関係を残したままの現在の「法的分離」と呼ばれるやり方では十分でなく、資本関係を遮断する「所有権分離」が必要だという指摘も一部の有識者などの間にあります。

一連の不祥事をとらえて所有権分離に踏み込むべきだとは思っていない。その手前でできることを見定めたうえで、期限を設けて改革をすべきだ。私は(東京電力勤務という)前職の経験もあるので、所有権分離の難しさは承知している。財産権の問題もあるし、いろいろなステークホルダーもいる。所有権分離せよとは簡単には言えない。

申し上げたいのは「この機会に所有権分離を」ということではない。送配電会社の中長期的なあり方を検討すべきだということだ。10年後、20年後という将来を見据えた場合に、現在のように送配電会社が北から南まで地域ごとに存在するといった状況はだんだん難しくなってくる。

風力など再生可能エネルギーが特定の地域に大量に導入されるとともに、電力系統ネットワークも増強しなければならない。送電鉄塔のような高所での作業に従事する専門的なスキルを持った人材も不足してきている。そうしたことを考えると、送配電部門を全国規模で統合していく必要も出てくる。将来を見据えての建設的な議論が必要だ。

――カルテルや不正閲覧とは別に、大手電力の発電部門が電力販売のうえで、自社の小売り部門と新電力を公平に扱っていないといった問題も持ち上がっています。

いろいろな事情があってのことだろうが、「内外無差別」になっておらず、発電部門からの電力調達において大手電力の小売部門が新電力よりも有利になっている。この問題については電取委がきちんと調査したうえで是正させることになっているが、遅々として進んでいない。

発電部門による入札の仕組みも導入されたが、自社の小売部門が安い電力をあらかじめ長期にわたって大量に押さえてしまっていて、われわれにはほとんど回ってこない。東北電力のように改革が進んでいる企業がある一方で、特にJERAや東京電力エナジーパートナーなどでは改善がほとんど見られない。

対応が遅れるほど新電力はコスト競争力を失い、市場から退出せざるをえなくなる。早く何とかしていただきたい。

――公取委によれば、ある大手電力では、卸電力市場に供給する電力の量を意図的に制限して価格をつり上げ、新電力の競争力を低下させようと企てていた者がいたようです。公取委はカルテルに関する発表資料でそうした問題を指摘し、「情報提供」の形で電取委に申し送りをしています。

もし本当だったら電気事業のガイドラインで禁止されている相場操縦に当たり、非常に深刻だ。独占禁止法の排除型私的独占に該当する可能性もある。電取委には、事実関係についてきちんと調べてもらいたい。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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