「30代で部長に大抜擢」若手が離れたまさかの顛末 抜擢せず組織を活性化「ボスマネジメント」とは

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では、抜擢人事に頼らずに、同じような効果は期待できないのだろうか? そこで抜擢人事をせずに成功した事例を紹介しよう。

ある中堅の商社では、優秀な若手を抜擢せず、上司をうまく活用する「ボスマネジメント」の教育を定期的に実施した。

ボスマネジメントとは、組織を効果的に動かすために部下が上司をマネジメントする考え方だ。「部下が上司をマネジメントする」という表現に違和感を覚える人もいるかもしれないので、「部下が上司に戦略的に、能動的に働きかける」という表現のほうが合っているかもしれない。

40代、50代が半数以上のこの商社では、どんなに優秀であっても20代や30代をリーダーにすることは難しいそうだ。しかし近年、若手社員の定着率が低いことが問題視されていた。言語スキルが低いベテラン社員が多く、マネジメントレベルの向上が急務であった。

本来なら、優秀な若手社員にマネジメントを任せたい。しかし、肩書を変えるのは難しい。そこで考えたのが「ボスマネジメント」である。部長や課長の話し方が抽象的であれば、それを具体化させ、会社の方針と異なっていたら、その理由を確認した。

入社5年以内の若手に対して翻訳する立場を若手のリーダー格がとったのだ。この「ボスマネジメント」によって、若手社員はベテラン社員と良好な関係を保ちながら自分のキャリアを築くことができた。

「あいつが若手との橋渡し役を担っている。本当に頼りになる」

と、ベテラン社員からのウケもいい。

この取り組みにより、組織のハーモニーが保たれた。また、若手が自然にリーダーシップを発揮し、上司も彼らをサポートすることで、組織の成長を実現した。

「ボスマネジメント」が浸透したおかげで、若い社員の定着率もアップしたようだ。

抜擢人事を成功させる3つのポイント

とはいえ「ボスマネジメント」は簡単ではない。要領のよさや、組織への献身さがないと、肩書も付与されないのに、そこまで買って出られないという人もいる。

「地位が人を作る」

と言われるように、肩書を与えることでリーダーシップを発揮できる人材に育つ、ということもある。

そこで抜擢人事でも、うまくいくポイントを紹介しよう。3つのポイントを挙げたい。

(1)サポート体制の整備

抜擢された若手社員に対して、経験豊富な先輩や上司がメンターとしてサポートする体制を整備することだ。

経験が足りないリーダーが、独善的に考えることを防ぐためだ。リーダーシップに関する書籍や、リーダー研修で習うことは、あくまでも一般論。

その一般論を自分の組織に落とし込むためには、理屈だけに頼ってはいけない。だからベテラン社員によるサポート体制が必要なのだ。

これにより、抜擢された若手は経験豊かなメンバーたちとの関係構築に対し、経験不足を補うことができる。

(2)組織内コミュニケーションの促進

抜擢人事が成功するためには、組織内コミュニケーションを円滑にすることが不可欠だ。

例えば、定期的なチームミーティングやフィードバックの機会を設ける。そうすることで、若手と先輩や上司が互いの意見や考えを共有し、理解し合える環境を作り出すことができる。

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