みずほの「Jコイン」、誕生4年で打ち出す挽回策 個人利用で苦戦の中、法人・自治体需要に活路

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EC事業者や携帯キャリアとの真っ向勝負はジリ貧に陥りかねず、競合がまだ進出していない市場の開拓を急ぐみずほ。前述のハウスコインはその一環だが、同様にみずほが期待を寄せるのは自治体向けだ。

元々みずほは、コロナ禍を受けて配布されたプレミアム付商品券のデジタル化に対して、Jコインの活用を提案していた。そこから一歩進んで、特定の自治体内で流通する地域通貨の開発を目論む。

2022年10月に群馬県高崎市で始まった地域通貨「高崎通貨」は、Jコインのシステムをそのまま転用している。就職や結婚などに際して市から給付金を受け取る際、現金ではなくJコイン上にチャージされる仕組みだ。昨春に市が地域通貨の導入業務を公募し、決済事業者など5社の中からみずほが選定された。

受け取った給付金は、通常の残高とは別の「ボーナス」(ポイントに相当)に充填される。ボーナスは出金や送金ができず、市内のJコイン加盟店でのみ利用できるため、市にとっては給付事務のデジタル化に加えて、市内での購買促進が期待できる。みずほにとっても、高崎通貨の利用を通じてユーザー数や加盟店拡大の一助としたい構えだ。

今年3月には、福島県会津若松市でも地域通貨「会津コイン」の実証実験が始まった。こちらはみずほがSI大手のTISと共同開発した。市内加盟店舗での決済に加えて公共料金の支払いなど、さまざま自治体サービスとの将来的な連携を視野に入れる。

「レガシー」からの脱皮なるか

法人や自治体需要の開拓という新機軸は、Jコインの将来を占う重要な戦略といえる。

元々Jコインは、デジタル技術を活用した新規事業として、みずほFGの坂井辰史前社長・みずほ銀行の藤原弘治前頭取時代に発足したサービスだ。ところが、一連のシステム障害によって経営陣が刷新された現在、Jコインは旧経営陣の「レガシー」となっている。

現経営陣はAIスコアリングの「Jスコア」やLINEとの共同事業であった「LINE Bank」など、前経営陣の肝いりだったデジタル新規事業であっても、不採算であれば撤退を断行している。Jコインもこのまま展望が開けなければ厳しい未来が待っている。

みずほは2019年から始まった現在の中期経営計画を打ち切り、新経営陣が考案した中計を近く発表する見込みだ。その中でJコインがどのように位置づけられるかも、注目点だろう。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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