長期化するリビア内戦、殉教を選ぶカダフィ大佐


 エジプトなどアラブ情勢に詳しい鈴木恵美・早稲田大学准教授も、「リビアには国軍、治安部隊、アフリカ系傭兵部隊など複数の武装組織があり、一部に離反はあったが、それぞれが機能したことがカダフィ大佐を延命させている」と分析する。

カダフィ大佐は、リビア革命の指導者としての誇りと、歴史に残る英雄として死にたいという願望を持っている。本人と家族の生命、ある程度の財産を保障されることを条件に身を引いたベン・アリ(チュニジア前大統領)やムバラクとは性格に違いがある。俗物ではないのだ。

塩尻氏は、「カダフィ大佐は追い詰められても逃げず、殉教者として死ぬことを選ぶだろう」とリビア内戦の結末についてのイメージを語る。

リビアは直接民主主義(ジャマーヒリーヤ)を標榜する、「元首も政府も議会もない」世界でも類例のない国家である。その中心にカダフィ大佐がいる。便宜上、世界のメディアはカダフィ大佐と表記するが、国家や軍隊の公職を持っているわけではない。国家元首でもない。

カダフィ大佐の思想は『緑の書』で述べられており、資本主義でも共産主義でもない独自の第三世界論が展開されている。だが、「リビア国民はカダフィ大佐の第三世界論についていけず、戸惑ってきた」(塩尻氏)。リビアは産油国なのに、都市の景観がみすぼらしいのは、カダフィ大佐が石油収入を世界の民族解放運動につぎ込んできたからだ。

カダフィ大佐は、04年の全国人民会議の演説で、自らをイエス・キリスト、ムハンマド、ルソーなど世界を変えた預言者、哲学者に例えている。カダフィ大佐は演説で、「イエス・キリストは、生きているときは周囲から迫害されて殺されたが、死んでからは人類の半数が信仰するようになった」と歴史観を述べている。欧米やアラブ世界の一部では、こうした強固な世界観を持った指導者が主導する内戦を早期に終わらせるには、カダフィ大佐を暗殺するしかないという見解が広がっている。

(シニアライター:内田通夫 =週刊東洋経済2011年4月9日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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