日韓関係改善へ今こそ「トラウマ」を克服すべき 小此木・慶大名誉教授に聞く戦略転換の必要性

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――トラウマとは、2015年のいわゆる日韓慰安婦合意の破棄のことでしょうか。この合意を締結したのは、当時外相だった岸田文雄首相でした。

韓国では新政権発足当初こそ日本との関係重視をうたいながらも、政権末期に近づくと歴史問題を取り上げ、反日を叫ぶといった繰り返しが保守、革新政権問わず繰り返された。

そうしたこともあり、一度決めても「ゴールポストが動く」といった対日政策の変化に対する嫌気というか、反発が日本に積み上がっていた。今回も、2027年に尹政権が終われば、対日方針が変わるのではないかと疑うのも無理はない。

今後ゴールポストが動かないという保証はないが、尹政権の外交戦略に鑑みるに、日本にとっては金大中(キムデジュン)政権(1998~2003年)以来のチャンスが来たともいえる。

金大中氏と当時の小渕恵三首相は「日韓共同宣言――21世紀に向けた日韓パートナーシップ」を導出し、「史上最良の日韓関係」を築いた。当時のように日米韓の3カ国関係を戦略的なものにできるチャンスだ。

「歴史に囚われるのはやめよう」

――日米韓の戦略的関係を強化できる、ということですか。

そうできると考える理由として2つある。1つは、日米韓の安全保障協力を今後の国際情勢に合わせて強化する余地ができたこと。もう1つは、尹大統領が日韓関係改善に強いリーダーシップを発揮していることだ。尹大統領の側近やブレーンが今回の関係改善策を提示したというよりも、彼の考えや信念ゆえに行われたと見られる。

例えば、「自由民主主義」「人権」「未来価値」といった発言が尹大統領の口から絶えず出ていた。これは、「もう歴史に囚われるのはやめましょう」ということではないか。対立する北朝鮮との関係をにらみ、米韓関係をしっかりしなければ対抗できないと考える尹大統領は、日韓関係もしっかりさせないといけないと考えている。

それゆえに、これ以上歴史に囚われた日韓関係であってはならないと考えているのではないか。その胸の内まではわからないが、尹大統領自身の個人的な体験ゆえの理由があるのかもしれない。いずれにしろ、尹大統領は「日韓関係を転換させる」ための準備をすべきだとの強い意志を持っているようだ。

――金大中政権は革新(韓国では進歩という)政権、尹政権は保守政権ですが、政治志向に違いはみられますか。

尹大統領は、金大中政権と比べても日本に対してより強い意志があり、プラスアルファがあるように思える。金大中氏本人は革新派だったが、政権がやったことを振り返ると「保革連合政権」といえるものだった。純粋に「革新政権」といえるのは、金大中政権の後の盧武鉉(ノムヒョン)(在任2003~2008年)、そして文在寅政権(同2017~2022年)だ。盧、文両政権は革新的なナショナリズムを日本に向けていた。

盧・文両政権には、日韓の国交を正常化した1965年の日韓基本条約について、「不当に締結された」という考えがあった。不当ゆえに日本とは改めて交渉しなければならないと考えた。こうした政権の意志が、徴用工問題に対する最高裁判決にも反映された。しかし、尹政権は今回、こうした考えを否定している。

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