脱炭素の次は「生態系維持」が経営目標になる 世界の新潮流「ネイチャーポジティブ」の衝撃

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
IUCNは絶滅が危惧される生物についての「レッドリスト」の作成や世界遺産条約に関してのアドバイスで知られる。タンチョウなど絶滅が危惧される生物は数多い(pixta/7432690/M)
「生物多様性の喪失、生態系の崩壊を食い止め、回復させる」ことの重要性が、世界の金融・ビジネス界に浸透してきている。日本では「生物多様性の保全」と「脱炭素(温室効果ガスの排出削減)」は関係ないと思っている人も多い。絶滅危惧種などを示すレッドリストなどで知られる国際組織「IUCN(国際自然保護連合)」のブルーノ・オベール事務局長に、世界の新たな潮流について聞いた。
オベール事務局長は4月15~16日に北海道で開かれたG7(主要7カ国)気候・エネルギー・環境大臣会合に出席するために来日。13日午後、都内でインタビューに応じた。

生物多様性、生態系保全が支える真の脱炭素

――温室効果ガスの排出削減と、生物多様性の維持および自然生態系の保全は関係ないという認識をどう見るか?

ブルーノ・オベール博士は1955年スイス生まれ。2005年からスイス連邦政府高官、環境大臣も務めた。スイス連邦工科大学の国際リスクガバナンスセンター長など経て2020年6月より現職(撮影:河野博子)

完全に間違っている。自然生態系は気候変動により影響を被るし、また、気候変動対策を進める私たちを助けてくれる。温室効果ガスの削減策、そして気候変動への適応策(被害軽減策など)とも、自然生態系の保全・回復が大きな支えになる。

まず、生物種は山の上に移ったり、北上したりすることで気候の変化(温暖化)に慣れようとする。時には北上しても陸地がなくなり、消滅することもある。生きものは、気候変動により大きな影響を受ける。

――気候変動対策の助けになるとは。

温室効果ガスの排出削減において、自然はわれわれの強力な味方だ。科学者たちの研究により、大気中に排出される二酸化炭素(CO2)のおおむね3分の1は(海、森、土壌など)自然により吸収され、バイオマス(生物体量)の中に蓄積されることがわかってきた。自然は、大気中に含まれるCO2を減らす強力な味方といえる。

砂漠化や都市のヒートアイランド現象を考えてみてほしい。東京のような都市で気温が上昇しても、より多くの緑、植栽があれば、気温を下げるのに役立つ。沿岸域では、強風による高潮や洪水から、マングローブの森が人々を守ってくれる。私の故郷は山国で、私たちは(大雨の際の)洪水や土砂災害に脅かされている。だから私の国では森を自然のリスクに対する防衛線とみて、法律で守っている。これは多くの国で同じだと思う。

次ページ世界の流行語となった「NbS」とは?
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事