脱炭素の次は「生態系維持」が経営目標になる 世界の新潮流「ネイチャーポジティブ」の衝撃

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インタビューを終え、オベール事務局長はIUCNの会員でもある日本経済団体連合会(経団連)に向かった。日本のビジネス界の人々との意見交換を楽しみにしていたという。

G7気候・エネルギー・環境大臣会合は「ネイチャーポジティブ経済連盟」を設立することで合意し、活動目的や内容が共同宣言の付属文書に盛り込まれた。「自然と生物多様性の価値が(経済社会の)中心に組み込まれ、強化される方向へと経済をシフトさせることが必要だ」とし、知識や情報共有、議論を進める。

「2030年までに生物多様性の喪失を止めて回復させよう」という目標は、2021年6月に英国で開かれたG7サミットで提唱され、2022年12月に国連生物多様性条約第15回締約国会議で採択された新目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組」につながった。

生態系保全とビジネスの可能性

大正大学に設けられたIUCN日本リエゾンオフィスでコーディネーターを務める古田尚也・同大学教授は「日本のビジネス界の関心は高まっている」と話す。古田教授が編集委員を務める季刊誌「BIOCITY(ビオシティ)」の94号(4月10日発行)は特集を組み、ネイチャーポジティブについて詳報している。

メルシャンのブドウ畑で行われている生態系調査(提供:キリンホールディングス)

生物多様性や生態系の保全が新たなトレンドになったからではなく、もともと行ってきた活動がこうした最近の流れに合致していることに気付き、改めてネイチャーポジティブを目指す活動として打ち出した企業もある。

キリンホールディングス傘下のグループ会社であるメルシャンのブドウ畑「椀子(まりこ)ヴィンヤード」(長野県上田市)は、もとは遊休荒廃地だった。それを草生栽培のブドウ畑に転換。

丁寧な下草刈りを続けた結果、広大で良質な草原が生まれ、化学農薬を有機栽培用のものに変えるなど配慮したこともあって、多様な生き物が見られるようになった。国立研究開発法人の農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)との共同研究で生態系調査も実施。絶滅危惧種を含む昆虫168種、植物288種を確認している。

「生物多様性のためではなく、ビジネスとしてブドウ畑を開いた。生物多様性にマイナスの影響が出ていることがないか確認するために生態系調査を始めたところ、その逆で豊かな環境が育まれていることがわかった」(キリンホールディングス広報)という。ネイチャーポジティブの取り組みには、さまざまな可能性がある。

河野 博子 ジャーナリスト

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こうの ひろこ / Hiroko Kono

早稲田大学政治経済学部卒、アメリカ・コーネル大学で修士号(国際開発論)取得。1979年に読売新聞社に入り、社会部次長、ニューヨーク支局長を経て2005年から編集委員。2018年2月退社。地球環境戦略研究機関シニアフェロー。著書に『アメリカの原理主義』(集英社新書)、『里地里山エネルギー』(中公新書ラクレ)など。2021年4月から大正大学客員教授。

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